毎年恒例の商店街の祭で、これまた恒例のマジックを頼まれた。
中央広場で小さなマジックショーをやる。
今回は商店街組合発足20周年にあたる。
各イベントもかなり趣向を凝らしたものになっている。
ならば俺のマジックショーも、いつもとは違うものにしなきゃな。
通りがかりの書店でたまたま目にした、童話ピーターパンの絵本。
表紙にでかでかとフック船長とピーターパンのドンパチの絵が載っていた。
かなり際どい描き方がされていて、見ようによっては、ドンパチではなくて迫っているように見える。
変わった描き方だね〜と言ったのは青子。
そして、なんだか楽しそう、と。
ふーん、コレいけるかな・・・。
商店街組合からの正式な依頼なので、わずかだがギャラも出る。
学生の身でギャラを貰うのは少々気がひけるが、今回は衣装から作らなきゃならないので、ありがたく戴くことにした。
とはいえ思い描く2着の衣装を一人で作るのは無理。
寺井ちゃんのツテで仕立て屋に頼むことにした。
フックのサイズは俺。
ピーターパンのサイズは青子。
もちろん、当日まで青子にはナイショ。
当然だ、事前に知られちまったら、あいつは絶対に着ない。
俺のマジックの助手を一度やってみたいと言っていた青子だ。
衣装の件は最後まで伏せておいて、誘っておけば、まず間違いなし。
本番が楽しみだね♪
「青子〜、商店街のショーさ〜、助手してくんねぇ?」
「助手? いいの?」
「おぅ、組合の20周年記念らしいから、ちょっと凝ったことやりてーんだよ」
「やったぁ!」
(まずは成功〜♪)
「ねぇ、凝ったことってどんなことするの?」
「ん〜、中身も色々凝ってみてぇんだけどさ、とりあえずは衣装を変える」
「え? スーツじゃないの?」
「今作って貰ってるよ、当日のお楽しみってな」
「変なモノじゃないよね?」
「大丈夫って、絶対に気に入るから」
「そう? じゃ、楽しみにしとくね」
商店街祭当日。
「青子、衣装持ってきたぜ〜」
「わぁ、見せて〜」
俺の手にあるものを衣装だと思ったのか、手を伸ばして取ろうとする。
「ばーか、コレは違うって」
「え?」
マジックで使う大きな布を青子に被せ、カウントをとる。
3・2・1!
布の下から出てきたのは、ピーターパンのあの衣装。
同時に、自分もフックの衣装にチェンジ。
「え? え? えぇぇぇ〜〜〜!!」
自分の衣装に驚いて、更に目の前の俺の衣装に真っ赤になって(胸はだけてるしな〜)、逃げ出そうとする。
「いや〜〜〜っっっ、青子、ウェンディがいい〜〜〜っっ!」
「だーめ、フック船長の相手はピーターパンって決まってンの」
「じゃ、快斗がピーターパンやればいいじゃない!」
「残念でした、俺はコッチがいいんだよ♪」
後ずさりしながら逃げる青子を捕まえて、フックの鉤爪でちょんちょんと顎の辺りをつつく。
もちろん青子の肌を傷つけないよう、材質はきちんと考えてある。
助手、したいんだろ?
近所のガキたちが、青子ねーちゃんを待ってるぜ?
舞台の上では敵同士だから、コレ以上迫ることはしねーけどな。
袖に引っ込んだ時は、絵本の感想通りにさせてもらうからな♪
「ばかぁ・・・・」
さぁ、特別大盤振る舞いのマジックショーの始まりだぜ。
Ladies and Gentlemen!!
It’s show time!!