100Q−53,84


青子は困っていた。
どのくらい困っているのかというと、現実逃避を一生してたいかも、という位困っていた。
青子をそこまで困らせるもの。
視線の先にある、一枚の紙。
先日、快斗とやった100の質問の回答用紙。
クリスマスプレゼントに何がいい?と聞いて返ってきた言葉は「53と84♪」

(聞かなきゃよかった・・・)

恋人になって初めてのクリスマス。
毎年新作マジックを見せてくれる快斗に少しでもお礼がしたくて、
高いものじゃなければ、どんなものでもいいよ、と言ってしまったのだ。
しかも、そんな青子の心情を判ってるのか判ってないのか、快斗はホテルのスィートを予約した、と言う。
「青子、泊まれるかどうかも判らないのに。お父さんいたらどうするのよ!」
青子の心配はごもっともだが、そこはそれ。快斗にぬかりはない。
都合良く、当日開催される宝石展に予告状を出し、警部は警察に足止めさせる。
少しばかり良心が痛むが、恋人達のイベントは重要なのである。
そんなこんなで、当日、青子は外泊が可能になり、プレゼントの話になって、現在に至るのである。
「はぁ〜、青子からって・・・、どうすればいいのよ・・・」
脳がショートするのではないか、というくらいに考え、悩み、結局、何も浮かばない。
疲れた精神では、考える事も突飛になる。
「・・・蘭ちゃんに聞いてみようかな・・・」
そんなものは蘭だって答えにくいだろうに、思考能力の低下というのはオソロシイ。

「え? 青子ちゃん、今、何て?」
蘭の頭上にハテナマーク、当然だ。
「う・・・ん、だからね、その・・・、蘭ちゃんの方から工藤君に迫った事・・・ある?」
「迫るって・・・、その・・・」
「うん、そっちの話・・・」
「/////」
蘭とて、そういう事を要求されないわけじゃない。
恋人になった以上は、そういう事もあるだろうとの予測はついていたが、実際のところ、簡単には出来ないものだ。
「・・・ごめん、私はまだ・・・」
「そっか・・・、ごめんね。変な事聞いて」
「ううん、それはいいんだけど。青子ちゃん、ひょっとして黒羽君から?」
「う・・・ん、快斗にね、クリスマスプレゼント、何がいいって聞いたの。そしたら・・・」
(新一も、いつかそういう事、言うのかしら・・・)
「快斗もめちゃくちゃなこと言うんだな」
「「え?」」
振りかえった先に、片手をあげた新一。
「し・・・新一! やだ、聞いてたの!」
「悪ィ、外から二人の姿が見えたからさ、声かけようと思ったんだけど、何か深刻な話してるみたいだったから」
「こんにちは、工藤君」
話の内容が内容だけに、青子は真っ赤。蘭は真っ青。
「ごめんな、青子ちゃん。聞くつもりはなかったんだけどさ」
「あ、いいの。変な事聞いた青子も・・・いけないから」
「もぉ! ひどいじゃない、女の子の話、盗み聞きするなんて!」
「だから、ごめんって」
新一に反省の色はない。ま、当たり前か。
「おせっかいとは思うけどさ、男から言わせてもらえば、そんなに考える必要はないと思うよ」
「え?」
「特別に何かしようとか、じゃなくてさ。例えば抱きつくとかね」
「新一!」
工藤新一、さらっと言うが、話の内容判ってるのか?
「あ・・・、そ・・・うなの?」
「ちょ、女の子同士の話なんだから! 新一は先に帰ってて!」
「あ、蘭ちゃん、いいよ。今日はありがとう」
そう言って、青子は立ちあがる。
「青子ちゃん、ごめんね。ホントに新一ってば、何考えてるんだか・・・」
「ふふっ」
膨れる蘭が可愛くて、ちょっと笑みをもらす。
「もぉ! 新一! 失礼な事したんだから、ここ新一のおごりね!」
「へ?」
ふざけすぎた罰として、遠慮する青子を制し、新一に会計をさせる。
「ごめんね、青子まで。工藤君、ありがとう」
「あ、いや・・・」
隣で蘭が睨んでいるため、新一の歯切れは悪い。
「じゃ、またね。蘭ちゃん」
「うん、またね」




その夜、蘭から青子に1通のメール。
『今日はホントにごめんね。さっきの話だけど、園子がね、服とか下着とかで工夫してみたらって言ってたよ。
露出の多いものとかどうかなって』
「洋服、下着かぁ・・・。そんなの持ってたっけ・・・」
クリスマスまであと2週間。
「明日、買いに行こうかな・・・」
当日、快斗が望むものが出来るかどうかは、青子の努力次第。
「頑張らなきゃ!」
青子、奮闘開始!



アドバイス通りに服と下着を買おうと決め、デパートへ行きはしたものの、
結局どうしていいか判らず、青子が園子に助けを求めたのが、Xデーまで1週間となったある日。
蘭に相談したあの日、新一との間に何があったのか、蘭も一緒に3人でデパートへ来ている。
「しっかし、オトコってのは考える事一緒なのね〜」
「え? 一緒って?」
「新一君もね、黒羽君と同じこと蘭に言ったらしいのよ」
「うそ・・・。ホント? 蘭ちゃん」
「う・・・ん」
「ご愁傷様〜」
「「園子(ちゃん)!」」


明けてクリスマス当日。
仕事に出た快斗をホテルで待ちながら、まだ悩んでいる。
買い揃えたものに着がえたのだが、やっぱり恥ずかしい。
時間は刻一刻と迫ってくる。
快斗が戻るまであとわずか。
「どうしよう・・・」
蘭と園子に会ったあの日、園子にもらったもう一つのアドバイス。
(あれしかないのかな・・・)
ない知恵を絞っても、結局いい案は浮かばず、青子は腹をくくった。



  「ねぇ、せっかく来たんだから、ちょっと覗いてみない?」
  園子の提案で寄り道した先は、香水の専門店。
  先日からCMで流れている新作がずらりと並んでいる。
  入り口のポスターに書かれている、その新作のキャッチフレーズ。

  『キスして欲しいところ、どこですか?』
  『キスしたいところ、どこですか?』

  なんでも外国の女優だか著名人だかの言葉らしい。

  「いろいろあるんだね」
  普段香水をつけない者でも、このキャッチフレーズなら敏感に反応する。

  「そうよ! これ使えばいいじゃない!」
  「「え?」」
  要は誘惑すればいいのだ。
  メーカーは宣伝にかなり力を入れているため、TVで、街中で流れる回数も多い。
  新一と快斗が仮にそういうものに疎かったとしても、目にする機会は多分にある。
  まして、共にIQの高い天才児。
  彼女等のいわんとするところはお見通しだろう。

  つまり、キスしてほしいところに香水をつける。
  もしくは、キスしたいところにつけてもらう。
  どちらを取るかは本人の自由だが、それでも充分誘惑は出来るだろう。


そうして、園子の見立てで選んだ香水を手に、当日を迎えた───。


そして、2人の奮闘の結果は・・・


後日、再び仕事で顔を会わせた、探偵と怪盗の、どことなく緩みきった顔が物語っていた。



ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ


オマケの新蘭


青子と別れた後、蘭は誘われるまま新一の家で何故か家事労働中。
(・・・私っておさんどんなのかしら?)
などと考えもするが、元々好きでやってる事。
まぁ、いいか、と思考を止める。
(それより・・・)
帰ってきてから、新一の様子が何となく変なのである。
時折、じーっと蘭を見つめたり、目があえば、意味深にニヤ〜と笑い出すし。
先ほどの青子の相談の内容が内容だけに、いや〜な予感もする。
(まさか・・・ね)
「新一? コーヒー淹れたよ」
「ん? ああ、サンキュ」
「ねぇ・・・しんい・・・」
「蘭、こないだのリクエストの話だけどさ」
「え?」
「快斗の二番煎じってのはちょっと気にくわねーけどさ。蘭から誘ってほしいんだけどな」
(やっばり!!)
そう、青子と同様、蘭も新一に聞いていたのだ。
クリスマスのプレゼント、何がいい?と。
女同士の話を盗み聞きした罰は先ほど与えてしまったから、これはかわしようがない。
「ちょ、待ってよ!」
ところが、
「冗談だよ。本当は蘭がそばにいてさえくれれば、それでいいんだよ」
「え?」
「俺は快斗とは違うんでね。そんなヨコシマな事は考えてません」
ホールドアップよろしく、両手をあげておどけてみせる。
(本当に?)
訝しがる蘭を微妙な笑みでかわし、新一は持っていた小説に再び目を落とす。
だが、蘭は知っている。
こういう、あからさまなかわし方をする時の新一が、実はヨコシマな事を考えている事を。
快斗と同じように誘って欲しいと思っていることを。
そして、その通りにしないと、極端に機嫌が悪くなることも。
(・・・、青子ちゃーんっっ)
そして、蘭はとんでもない相談を持ちかけた友人と、その話を聞かれてしまった今日の出来事に、深い溜息をついた。





《saoriのお部屋》管理人saoriさんがご自分のサイトで書かれた100の質問のその後の話です。

なかはらはどうもこーやっていらぬ蛇足をつけたがるようでして、
ありがたい事にsaoriさんのところでもUPしていただいてます。

更に、オマケの新蘭は、カウンター600番をゲットされたゆうきさんのリクエストです。