「今年はね、変わった事やってみたいの!」
「は?」
『変則バレンタイン』
長い長〜い歳月を経て、ようやく手にいれたこの関係。
思う存分浸りたいと思うのは当然だろう。
2月・3月のスケジュールを決める時から、共に14日はあけるようにしていた。
前後にショーがあったとしても、当日の0時から15日変わる瞬間まで一緒に過せるように、意地と根性で調整もした。
ところが、だ!
「今年は何もしないよ? だからお仕事ちゃんとしてきてね?」
などとぬかしやがった。
あげく、ショーの予定を組んでいない、と知ると、どこからか仕事を取ってくる始末。
理由を聞いても答えない。
ただ「変わった事やってみたい」と言うだけ。
そんなこんなで、不機嫌度MAXのまま、2月14日の突発ショーをこなした。
当然だが、その後のスケジュールは殺人的なもので、
その“変わった事”が何なのか、聞くことも出来ずに1ヶ月が過ぎた。
2月を棒に振ったんだ。
今度こそはと青子を誘うものの、またも同じ答えが返ってくる。
「だから、何もしないって言ったでしょ?」
「青子、おめぇ判ってんのか? 俺達はもう幼馴染じゃねぇぞ?」
「判ってるよ? 恋人でしょ?」
「だったら・・・」
「いいからいいから。快斗はちゃんと仕事してきて? それが終わったら理由話すから、ね?」
そんなんで納得出来るかー!!
またもや不機嫌度MAXのままショーをこなすハメとなった。
「お疲れ様。素敵だったよ〜」
「あー、もー。ドーイタシマシテ」
機嫌は直ってねぇんだ、愛想良く出来るかっての!
「快斗、この後の打ち上げは?」
「そんな気分じゃございませんの。よってパス」
「そう? 良かった。じゃ行こう!」
「行くぅ? どこに?」
「決まってるでしょ? 快斗の家。これからするんだよ、バレンタインとホワイトデー」
「はぁ?」
「ほら、カバン持って。先に行くよ〜」
「何なんだよ、一体・・・」
「先にお風呂行ってきて? その間に準備しとくから」
自宅に着くや否や、エプロンをつけてキッチンに立つ青子。
言われるままに風呂へ行く。
この1ヶ月間の体力と精神力の疲れを取るかの如く、ずふずぶと湯船に浸かる。
「こんなんで取れるワケねーんだけどなぁ・・・」
“変わった事”の準備をしてるであろう青子を想い浮かべる。
ま、何をしたいのかは知らねーけど、やらなきゃならんことはちゃんとしねーとな。。
不機嫌度MAXまで持って行ってくれたお返しを。
風呂から上がって、リビングへ行く。
青子の準備とやらも終わったらしく、食卓には所狭しと料理が並べられている。
「じゃ、始めよう。座って?」
「ちょっと待て。その前に理由を聞かせて貰おうじゃねーか」
「理由? あ、うん」
ソファに座り、青子を隣に引き寄せる。
「俺がさ、14日あけてたの知ってたんだろ? 何の為にあけたかも判ってたんだろ?」
「うん」
「なら何で・・・」
「ごめんね? ホントは青子だって一緒にいたかったんだよ? でも、でもね・・・」
ぽつりぽつりと話し出す青子を腕の中に閉じ込める。
「快斗、昔もそうだったけど、マジックの仕事始めてからファンが増えたじゃない?
この間ね、そんな人達とすれ違ったの。その時言ってたんだ」
「何て?」
「ファンを大事にする人だと思ってたのに、みたいな事」
青子と過す為に、仕事入れなかったでしょ?
マジシャン黒羽快斗は、ファン全員のものなのに、仕事に私情を挟むんだ、って言ってたの。
その子達、当日のショーで快斗のチョコ渡したかったみたい。
もちろん、青子は快斗がそんな事しないって知ってるよ。
だけど、マジックをする快斗しか知らない子達には、そう映る事もあるんだって、その時思ったの。
ただの黒羽快斗は青子の恋人だけど、マジシャン黒羽快斗はファンの恋人でしょ?
そう考えてたら、その子が持ってるチョコ、ちゃんとマジシャン黒羽快斗に渡してあげたくなったの。
恵子は、そんなの関係ないって言ったけど、
そのチョコはその子の想いが込められてるものだから、ちゃんと届けなきゃって。
だから・・・
「だから、何もしないって言ったのか?」
「うん・・・」
ったく、どこまでお人好しなんだか。
「マジシャンの俺がファンの恋人ってのは判るけど、そのせいでただの俺が損するってのは嫌なんだけど?」
「ごめんなさい」
「理由はそれだけ?」
「・・・・・・・」
嘘をつけないってのは、ある意味損らしい。
腕の中で、ピクリと反応する。
「まだ何かあんのか?」
「えと・・・」
「別に怒っちゃいねぇよ。ほれ言ってみ?」
「・・・・・・・あのね。嫌だったの。ファンの子のチョコ、ちゃんと渡せるようにしなきゃって思ったけど。
それでも受け取ってる快斗を見るのが嫌で・・・。お返しのマジックをしてる快斗を見るのも・・・」
ファンの為に身を引いて、それでも傍にいたい想いも強くて。
どうにもならない想いに苦しんだのか、ぽとりと涙が零れる。
変わった事がしたい、と笑って言うのにも、どれだけの勇気がいった事か。
「ごめ・・・んなさ・・・い」
「泣くなって、怒ってねぇから。それより腹へった。メシ食いたい」
「ん・・・」
「バレンタインするんだろ? ちゃんとやんなきゃホワイトデーがねぇぞ?」
「ヤだ」
泣いたと思えば、すぐに笑う。
コロコロ変わる表情は、見ていて楽しい。
「はい、あげる」
渡されたチョコは、遅れた1ヶ月分の想いを表してるのか、とびきり甘い特大チョコだった。
青子の考えは可愛いし嬉しいものだけど、やっぱり貰うのは当日がいい。
「青子の考えは判った。けど来年はこんなのナシだからな!」
「・・・・・・・・はぁい」
突貫工事(またかい/笑)に近い形で、ようやくあがりました。
相反する想いに苦しむ青子を書きたかったのですが、
どうも薄っぺらい話になってしまいました。
更新止まってますし、新作も書いてませんので、せめてものお詫びです。
今月いっぱいフリーにしますので、胃薬の準備が出来た方は、貰ってやって下さいまし。
(フリー期間終了しました)
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