みずふうせん












ぽんぽんぽん。
ぱしゃぱしゃぱしゃ。


秋の陽射しが照りつける中庭で、涼しげな音が響く。




ぽんぽんぽん。
ぱしゃぱしゃぱしゃ。



かれこれ10分近く、音が続いている。

「青子、いつまでやるんだよ、ソレ」
「ん〜」

青子の中指からゴムが伸びている。
ゴムの先には水の入った風船。

夏祭りでよく見るアレだ。


一通り遊んで気がすんだのか、指から外して掌に乗せる。
そのまま太陽に向けて腕を伸ばし、風船を通す乱反射をじっと見ている。

「不思議だね、ただの風船と水なのに、宝石みたい」
「光りの屈折のせいだろ。ンな事も知らねーのかよ」
「もう!ロマンチックじゃないなぁ、快斗は」
「水風船にロマンもクソもあるかよ」

「青子ね、時々思うんだ。水風船の中に入ってみたいなぁって」
「はぁ?」
「こんなにキラキラしてるんだもの、もっと近くで見てみたい」
「窒息するぞ、溺れるぞ」
「だから!」
「はいはい、ロマンなんてないですよ、オレには」

「何よ、バ快斗! 思うだけなんだから、いいじゃない!」


ぷいっと拗ねて背を向ける。

(このくらいで拗ねるなっての)




ぽんぽんぽん。
ぱしゃぱしゃぱしゃ。




再び指に通して、遊び始める。
この小さなオモチャのどこに惹かれたのか。
嬉しそうに楽しそうに風船を叩く。




ぽんぽんぽん。
ぱしゃぱしゃぱしゃ・・・ばしゃんっ!



「あ!」



伸びすぎたゴムは、その負荷に耐えられずにぷちんと切れ、
青子の掌でキラキラと輝いていた風船はそのまま落下。
無残に砕け散ったゴムを呆然と眺め、少しだけ顔色を曇らせる。

「落ちちゃった・・・」

「やりすぎだろ」

しゃがみ込んで、裂けたゴムを掌に乗せる。
何を思ったのか、またその手を空に掲げる。

「もう見えないね、キラキラしてたの」

(そんな顔するなよ・・・)

「まだあるんじゃねーの?」
「え?」
「商店街にあるだろ、そーゆーの置いてる店が」
「あ、そうだね・・・。でも・・・、いいよ」

壊れてしまったら、新しいのを、という感覚は、青子はあまり好きじゃない。

掃いて捨てる程、モノが溢れる時代。
だからこそ、今あるものを大切にしたい。
今の気持ちを大切にしたい。
青子が、時々つぶやく想い。

判ってはいたけど、あんな暗い顔されたんじゃ、たまらない。
否定を承知で言いたくなる。



「来年、また会えるさ」
「そうだね」

「来年は青いヤツにしようぜ、で、オレも遊んでやるから」
「青? いいけど?」





大事に大事に取っておくよ。
ゴムが伸びないように、水がなくならないように。




青い風船、たくさんな。











2007年9月の青子嬢誕生日企画『Blue−Birthday』参加作品です。

えーと・・・・・・・。
コレのどこが誕生日なんでしょう????
水風船をキーワードにつらつらと書いていて、
気がついたら誕生日のカケラもない小話になってしまいました(汗)

で、↓は設置していた拍手の一番奥に書き殴った、こじつけ話です(笑)



















割れた水風船を片付け、陽も暮れた夕方。

そもそもオレが今日青子の家に来たのは、
昨日から警部が出張で、明日の誕生日も1人になる青子を自宅に呼ぶため。


準備をしてくるね、と部屋に戻った青子を待ちながら、フト考える。

青子は、あの壊れた水風船に何を重ねていたのだろう。
割れてなくなってしまう何かを抱えているのだろうか。


青子の事はたいてい判ってるつもりだが、それはあくまでも“つもり”でしかない。
オレの裏の顔を知られてしまってから、それは痛いほど感じる。


「聞いたって言わねーだろうしなぁ・・・」


だったら、どうすれば良いのか。
出来る事、してやれる事をきっちりやればいい。

まずは、明日の青子の誕生日を、盛大に祝う事。



「風船はちょっとなぁ・・・。似たよーなモンで勘弁してもらうか」



準備は今夜。
青子が寝静まってから。



「晴れてくれよな〜」



翌日、風船ではなく巨大なシャボン玉に包まれ。満面の笑みをたたえる青子と、
針金と格闘しながら、微笑ましく見つめる快斗の姿が、爽快な秋空の下に映し出された。