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やっばりアヒルは白鳥にはなれないんだね・・・・
『醜いアヒルの子』
9月。
青子の誕生月。
自分の誕生日を自分で祝うのは少し気がひけるのだが、にぎやかなお祭は好きなので、今年もやるつもりでいた。
そう、さっきまでは・・・・・・・。
夏休み。
大学の図書室から借りた本を返すために学校へ行った帰り道。
見てはいけないもの、見たくなかったものを見てしまった。
晩御飯の材料を買うために寄ったスーパーの入口から、通り向こうを歩く快斗を見つけた。
「あ、快斗だ」
通りへ出て、大きく手を振って名を呼ぼうとして、声を飲み込んだ。
快斗と並んで歩く人影。
青子の知る限り、見た事のない女性。
年は30半ばだろうか、長身でロングヘアで、モデル並のスレンダーな体型。
道路を行き交う車に隠されてはっきりとは見えないが、かなりの美女。
何を話し込んでいるのだろうか。
快斗に一方的にしゃべっている。
受け答えする快斗の顔が、照れているのか赤い。
快斗、あんな顔するんだ。
青子、始めて見たよ・・・。
突然の出来事に、その場から動く事も出来ず、そのまま2人が見えなくなるまで見送った。
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聞き込みの途中で自宅へ寄った父親に弁当を渡す。
今日は徹夜で張り込みらしい。
昼間の出来事が心の中でぐるぐると回っているが、それを表に出すような青子じゃない。
つとめて明るく振舞い、いってらしっしゃい、と送り出した。
一緒に作った自分の夕食も食べる気にはなれず、薄暗いリビングのソファに座り込んだまま、時が過ぎる。
昼間、快斗と一緒にいた女性。
誰かに似てるような気もするのだが、それより何より、青子には見せた事のない、あの赤い顔。
自分は快斗の“恋人”だと思っていたけれど、そうじゃなかったのかもしれない。
青子がいつまでたってもお子様を卒業できないから、愛想つかされたんだ。
ねぇ、快斗。
隣にいた女性、誰?
青子なんかよりもずっと綺麗で、大人で。
スタイルもモデルさんみたいに細くて。
あぁ、そうか。
やっぱり青子じゃダメだったんだね。
青子なりに頑張ったんだけど、アヒルは白鳥にはなれないんだね。
快斗はモテる。
青子なんかが独占しちゃいけないんだ。
ありがとう。
短い間だったけど、快斗の“恋人”になれて嬉しかったよ。
すごく幸せだったよ。
季節はもうすぐ秋。
青子の恋は、終わるんだね・・・・・・・・
落ちて行く一方の思考に、いつしか涙が溢れる。
快斗との想い出が走馬灯のように現れては消え、しだいに嗚咽がもれてくる。
「やっぱりアヒルは白鳥にはなれないんだね・・・」
一緒にいる時間が長すぎた。
こんなにも辛くなるほど、自分は快斗が好きだった。
改めて気付かされた想いに、涙は止めど無く溢れる。
「か・・・いとっっ」
頭を下げ、つぶやいたと同時に部屋が明るくなった。
「え?」
一瞬、何が起きたのか判らずに、慌てて顔をあげる。
「青子」
「!?」
背後からかかった声に振り向く。
リビングの入口に快斗が立っていた。
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「やっぱりな・・・」
「か・・・」
「さっき、見たんだろ?」
「え?」
青子をもう一度ソファに座らせ、自分は隣に腰を下ろす。
「夕方、スーパーにいたよな? こっち見てるの判ってた。 青子が何想ってたかも判ってた」
「ど・・・して・・・」
涙でぐちゃぐちゃになった頬に手をあて、親指で目じりをぬぐう。
「いいから、ちゃんと聞けよ」
「・・・・・・」
「一緒にいたのは、新一のおふくろさんだよ」
「え? 工藤・・・くんのお母さん?」
「そ、結構若作りらしいな、30代に見られるって自慢してたよ」
「でも、どうして快斗が工藤君のお母さんと?」
「あ・・・・、いや・・・・」
「快斗?」
快斗? 顔が赤い?
え? さっきと同じ・・・。
「あーーー、もーーーー!」
頭をガシガシと掻いて、真っ赤なままの顔で青子と向き合う。
足元に置いた紙袋から、赤いリボンのついた小さな箱を取り出す。
「コレ買うためにさ、店教えてもらったんだよ」
青子の手をとり、その上に乗せる。
「開けてみな」
「あ、うん」
がさがさと包みをあけ、出てきたのはベルベットの長い箱。
「俺らで買えるモノ置いてる店なんて知らねーし、1人で入るのもアレだし・・・。
新一のおふくろさんがそういうの詳しいって聞いてたから、紹介してもらったんだよ」
小さなクロスペンダント。
「快斗・・・、これ・・・」
「誕生日近いだろ?」
「誕生日・・・、来月だよ」
「判ってるよ、ほら、KIDの仕事入ったら、金なくなっちまうしさ。
それに新一のおふくろが今週までしかこっちにいないって言うからさ」
「青子が貰っていいの?」
「当たり前だろうが、青子の誕生日に、青子に贈るものを他のヤツにやってどうすんだよ」
「でも・・・」
昼間の女性が誰かは判ったけど、青子がお子様だって事には変わりない。
やっぱりアヒルは白鳥には・・・
「青子!」
黙りこんだ青子の腕を取り、再度顔をあげさせる。
「青子が何想ったかは大体判る。だけどそれは間違いだ」
「快斗・・・」
「ったく、たまにしか言わねーからな。しっかり聞いとけよ」
そのまま青子を抱き締める。
赤くなる顔を見られないように。
「青子はお子様なんかじゃねーよ。とびっきりのイイ女だ」
「え?」
「絶対に誰にも渡さねぇ」
今、何て言った?
そのまま体を離し、名を呼ぼうとする青子の口を塞いだ。
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醜いアヒルの子は白鳥にはなれない。
アヒルの子はアヒルにしかなれない。
無理して白鳥になろうとしなくてもいいのかもしれない。
だって青子は青子だから。
そのままの青子で、ゆっくり大人になっていこう。
快斗が傍で見ていてくれる限り・・・・・・。
カウンター777ゲットのとも子さんのリクエストです。
内容は、なかはらの作品『パカップルに100の質問《青子編》』よりQ44の回想でした。
ちょっと切ない話になってしまいましたが、お口にあいましたでしょうか?
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