『A nostalgic cheap candy』








お父さんに着替えを届けた帰り。
今日は夕ご飯の買物もしたいから、商店街へ寄り道。
御馴染みの八百屋さんやお肉屋さんで必要なものを買って、帰ろうとしたその時。
ふと視界に隅に入った小さなお店。

「あ!」

懐かしいなぁ。
快斗と一緒によく来てたっけ。
昭和レトロを感じさせる店内に所狭しと並べられた沢山の駄菓子。
あの頃は、確かおばあちゃんがやってたんだよね。
あれから数年、引退したおばあちゃんの跡を継いで、今は孫の亜梨乃さんが看板娘。

「ちょっと寄ってみようかな」

小さく呟いて、足の向きを変える。

「こんにちは」

店の入口から声をかけた。

「はい、いらっしゃい」

出てきたのは、引退したはずのおばあちゃん。

「え!? おばあちゃん? またお店に出てるの?」
「おや? 青子ちゃんかい? まぁまぁ、素敵なお嬢さんになったねぇ。
 今日は特別だよ、亜梨乃が風邪をひいちゃってね。快坊は元気かい?」
「うん、元気だよ。最近忙しいらしくて、ちょっともじっとしてないけど」
「そうかい、そうかい。元気がイチバン。快坊らしいね」

小学生の頃、少しずつ貯めたお小遣いを持って、快斗と2人、よく通った。
10円で買えたチョコ、ガム、アメ玉。
色とりどりの駄菓子は、宝石のようで、いつもわくわくドギトキしてた。
あの頃からやんちゃ坊主だった快斗は、おばあちゃんに快坊と呼ばれ、
快斗が「快坊って呼ぶな」って顔を赤くしてたっけ。

「懐かしいなぁ」
「あぁ、そういえば、快坊は明日が誕生日じゃなかったかい?」
「あ、うん、そうだよ。覚えてたの?」
「忘れるもんかね。死んだじいさんと同じじゃったからのう」
「そうだったね。明日なのに、プレゼントがまだ決まらなくて・・・」
「快坊はいくつになったんだい?」
「誕生日が来たら18だよ」
「もう、そんなになるのかい。月日が経つのは早いねぇ。
 ここは昔のまんまじゃが、みんな大きくなったんだねぇ。
 そうじゃ、青子ちゃん。ここの菓子、快坊に持っていってくれんかの? 
 ババからのプレゼントじゃ」
「うん、いいよ。快斗、ここのお菓子大好きだったから。そうだ!青子もそれにしよう!!」
「そうかい? じゃパパと一緒にしようかね」
「うん!」

それから近所の雑貨屋さんへラッピングの材料を買いに行き、
おばあちゃんと2人で、快斗が好きだったモノをたくさん詰め込んだ。

「ありがとう、おばあちゃん」
「いいんだよ。今度は快坊と2人でおいで。亜梨乃に言ってくれたら、お店まで出てくるよ」
「うん!亜梨乃さんにお大事にって伝えて下さい」
「はい、伝えておくよ。じゃあ、またね」





















「快斗! 誕生日おめでとう!」

学校の帰り、プレゼント渡したいから、と青子の家に寄ってもらった。
いつものカフェオレを出して、座った快斗に大きな包みを渡した。


「ずいぶんとデカイな」
「でしょ? 開けてみて」



快斗の顔が隠れるぐらいの大きさの包みが、がさがさと音を立てる。



「? お菓子?」
「快斗、覚えてる? 商店街の駄菓子屋さん」
「あぁ、あのばあちゃんがいるところだろ?」
「買物に行った帰り、懐かしくなってちょっと寄ってみたの。
 そしたらたまたまおばあちゃんがいてね。話こんじゃったんだ」
「へぇ」

「おばあちゃん、快斗の誕生日覚えてたんだよ?
 それでね快斗に渡してくれってたくさんくれたの。
 青子ね、何だか嬉しくって。快斗が好きだったお菓子が今も残ってたんだもん。
 だから、青子も一緒にしようって思って。
 そりゃね、18歳の誕生日にお菓子なんてって思わなかったワケじゃないけど、
 快斗、おばあちゃん好きだったでしょう? 
 話しながら、あの頃の事思い出してたの。
 いつも快斗と一緒だった事とか、快坊って呼ぶおばあちゃんに照れて事とか」

「快坊って言うなっての!懐かしいな。10円握り締めてよく行ったよな」
「あの頃は10円が宝物だったよね」

「そういや、青子、途中で転んで失くした事あったよな?」
「やだ、そんな事まで覚えてたんだ」
「多分、傍の溝に落ちたんだろ。コンクリの蓋は開けられねーから、
 あきらめるしかないって言ったのに、聞かねーで大騒ぎして」
「結局、どうしたんだっけ?」
「泣きながらばあちゃんに話して、アメ玉貰ったんじゃなかったか?」
「そうだったかな」

「ばあちゃん、元気だったか?」
「元気だったよ。亜梨乃さんにお店譲って、趣味三昧だって。
 青子が行った日は、たまたま亜梨乃さんが風邪で、おばあちゃんがピンチヒッターだったんだ」






昔話に花を咲かせながら、一つ一つ中身を出していく。
懐かしがったり、びっくりしたり。
小さな掌と同じサイズだったお煎餅も、今では一口で入っちゃう。



「青子も食べるんだろ? こりゃ、いくらなんでも多すぎるぜ」
「えへ、判った?」
「そのくらい判るってぇの! ほれ、どれだ?」









テーブルの上に広がった、色とりどりの駄菓子。
懐かしい思い出と、優しいおばあちゃんと、快斗の笑顔。
良かった、喜んでくれて。






「おばあちゃんがね、今度は一緒においでって。
 亜梨乃さんに言っておいたら、お店まで来てくれるんだって。 ね?今度は一緒に行こうよ」
「ん〜、時間がとれたらな」
「また〜、逢いたいくせに」
「快坊って呼ばねぇなら、行ってもいいぜ」
「もぅ! 意地っ張り!」













ねぇ、快斗。
駄菓子屋さんも、八百屋さんも、お肉屋さんも。
これからもずっとずっと一緒に行けたらいいね。







ハッピーバースディ、快斗!









2007年6月21日より開催された『快斗にプレゼント企画(主催:亜梨乃様)』参加作品です。

10円握り締めたチビ快青!
転んだ青子や快坊と呼ばれる快斗が皆様の脳裏に浮かびましたでしょうか?

亜梨乃さん、素敵な企画(&特別出演のご快諾)、ホントにありがとうございました。