君のために・・・・。




【梢ちゃん】



黒羽家・・・・・。


この家の主である。

だが今はここにはいない・・・・。
病院にいるのである。


主にしては落ち着きがなくそわそわ動いていた。
あっちにいったりこっちにいったり・・・・。
どうやら止まらないようだ・・・・。


訳は一つだけである・・・・。

快斗の妻である青子のことだった。

青子は朝早くから洗面所でいきなり血を吐いた。
青子はそのことに驚いてしまった。

まさかと・・・・・・。

すぐさま青子は快斗の元に走ろうとした。

だが、走ろうとするが身体が少しふらついて足下が不安定だった。


欠伸をしながら快斗は階段を降りてきた。

寝起きである。

いつもなら目覚ましか・・・もしくは青子が起こしてくれるはずなのだが・・・今日は両方ともない・・・。


時計は止まっていた。

きっと、青子が五月蠅くないように止めたのだろうと・・・。


でも青子は来なかった。

それで起きて来たのである。



起きてきた快斗は驚いた。

青子が倒れているからである。


いつも「おはようvv」と言って迎えてくれる青子が・・・。


快斗は急いで階段を滑るようにして降りた。

傍により青子を抱きかかえる。


「青子、しっかりしろよ!!!どうしたんだよ!!!」


「か・・・いと・・・・」


意識は少しあるが少し切れかかっている。

何がなんだかわからずにいた。


(一体どうしたってんだよぉ・・・待て・・冷静になれ・・・)


頭の中を整理させた。

「もしかしたら・・!!!」


快斗は、急いで電話に手を伸ばし電話番号を押した。

そして青子は救急車で病院に運ばれたのである。



これがその前の出来事・・・・。


青子はまだベットの上で寝ていた。

呼吸も整いゆっくり寝ていた。






【なかはら】



「黒羽さん? 黒羽さんのご主人いらっしゃいませんか?」


看護婦が診察室入り口から快斗を呼ぶ。

「あ、はい、黒羽です」

「どうぞ、診察は終わりました。先生から説明がありますので」

「おめでとうございます、奥さん、三ヶ月ですよ」

「え?」


もしかしたら?とは思っていたものの、実際に面と向かって言われると、何と言って良いのか、戸惑ってしまう。


「奥さん自身も気付いてなかったようですね、少し無理をなさったようだ。
特に異常はないようですが、落ち着かれたら、早いうちに産科への受診をされてください」


運ばれた先は総合病院。医者は残念だがここには産科はないと言う。


「あ、はい、ありがとうございました」



*****************



「う・・ん? あれ、ここどこ?」

「病院だよ、オメー倒れたの憶えてね〜の? ったく、マジで心臓止まるかと思ったぞ、意識朦朧としてたし・・・」

「倒れ・・・、あ、青子、今朝、血吐いて・・・、それから・・・、でも何で?」

「医者にちゃんと聞いたよ。青子、ありがとう」


いきなり礼を言われて、青子の頭にはハテナマークが飛んでいる。


「え?」


快斗の顔は少し照れたように赤い。手を青子のお腹に当て、軽く撫でながら、

「今、三ヶ月だって言われたよ」

「え?え? 嘘・・・」


信じられないといった表情で、青子も手をお腹に当てる。

「ホントに? 赤ちゃん・・・、出来たの? 青子・・・」

「あぁ、落ち着いたらちゃんと産科へ行けってさ」


青子の顔が歓喜であふれる。自分に起きている事が信じられなくて、嬉しくて、涙まで出てくる。

「青子、ありがとう」


再び礼を言う快斗の表情も、崩れっぱなしだ。




悪友名探偵'sの奥方が揃って妊娠し、あたふたする様を間近で見ていた時に

「俺は絶対にこうはならないぞ」と固く誓ったものの、

いざ自分の半身がそういう状況になると、決心はどこへやら、ポーカーフェイスなど出来そうもない。


「病院行かねーとな・・・って、産科なんてどこにあるんだ?」

「そうだね、あ、蘭ちゃんが行ってたとこなら、確かうちからも近いんじゃなかったっけ?」


(彼女に聞くという事は、即効で新一の耳に入るよな。で、すぐに平次の耳にも・・・)

近いうちにからかわれるであろう自分を、苦笑いで想像しつつ、
先ほどからお腹を見つめて幸せそうな青子を、これまた幸せそうな顔して見つめる。

青子の為に、産まれてくる子の為に、自分がしっかりしなければ、と気合を入れなおす。


妊娠期間は十ヶ月十日、あと約七ヶ月。

何事もなく過ぎる事を快斗はただただ祈るばかり。




そして七ヶ月後、病院の廊下で、またもやうろうろする快斗を、
悪友名探偵'sがニヤニヤしながらからかったとか、からかわなかったとか・・・。









佐倉井梢ちゃんとの合作です。
彼女がご自分のサイトのお話掲示板に書かれていたものに、なかはらが勝手に続きを書いてしまいました。
そのお話掲示板の一時閉鎖に伴い、こちらでのUPのご許可を戴きました。
分娩室の前でクマさんの如くウロウロする快斗(書いてませんけど/笑)が目に浮かびます。