江古田商店街夏祭









「うわぁ・・・。お客さんいっぱい・・・」




東京都・江古田商店街。


今日は商店街の毎年恒例の夏祭り。

今年は商店街の組合発足20周年記念とあって、祭の規模も、例年よりは大きめ。

中央広場に作られた舞台では子供達の合唱や地元婦人会の踊り、更には飛び入りカラオケ。

内容としては、余所の祭とたいして変わらない。

それでも、例年よりは若干多いくらいの人出だろうと予測していたのだが、蓋を開ければ嬉しい計算違いの3倍。

原因は、目玉として企画した、地元高校生のマジックショー。


後で判った事だが、商店街のある雑貨屋店経営の2人が快斗のファンで、

彼女達の口から全国に散らばる高校生マジシャン黒羽快斗ファンクラブ会員に情報が行き、

にわかツアーまで組まれていたとか。


そんな事情までは知らないが、観客の多さに、少々戸惑い気味の少女が1人。

隣には、妙に浮かれ顔の少年。


舞台袖から客席を盗み見ている。




観客席には、地元民に混じって、妙にテンション高い一団が目立っている。




「ねぇ、快斗。何かすごい事になってるよ」

「あ? あの辺り、妙にテンション高そうだな〜」

「あ、ねぇ、あそこにいるの。『ten rooms』のオーナーじゃない?」

「は? あぁ、雑貨屋のおねーさん達か。何か、目、光ってねぇ?」

「2人とも快斗のファンって言ってたもんね。今度お店でマジックの小道具とかも取り扱いたいって言ってたよ」

「ま、いいんじゃねぇ? 雑貨屋だし」

「マジック教室開いて、快斗に講師頼みたいって」

「うげ、マジ?」

「ほら、お店の隣に建物出来てるじゃない?あれ、その教室だって」

「おいおい、先に教室作ってんのかよ」

「すごいね〜、快斗。先生って呼ばれるんだvv」


(あんまし嬉しくねぇ・・・。青子だけでいいんだけどな〜)


「俺が断るかもって思わねーのかよ、あの2人」

「え!? 断っちゃうの? 青子、大丈夫ですって言っちゃったのに」

「はぁぁぁ? 何で勝手に言うんだよ」

「だってぇ・・・・・」

「ったく・・・。ほら、そろそろ始るぞ」

「あ、うん。快斗・・・、あの・・・」

「とりあえず、その話は後でな」




司会による紹介が始る。


ショーのネタはピーターパン。

囚われのウェンディを救うため単身乗り込んだピーターパンを待ちうける、フックの数々の罠、もといマジック。


少しでも気を抜けばマジックに魅入ってしまう青子に演技を仕込むのは大変だったが、それでも何とか形にはなった。



当初ウェンディは出てこない予定だったが、あまりの客の多さに、気を良くし、観客からウェンディ役を募った。


私が!と言わんばかりの激しい挙手が、あちこちであがる。

その中でも、ひときわ目立ったのは、先ほど話題にあがった、雑貨店経営の2人組。



「「快斗さまー!!! お願いしまーーーーす!!」」




(・・・・・・・)



2人の勢いに勝てる者は、いなかった。




ウェンディはフックのお気に入りではないが、ショーの進行上、ほとんどフックの傍にいる。

2人は共に「ウェンディをやりたい」と譲らず、とうとうWキャストという、前代未聞のショーとなった。



舞台袖での簡単な打ち合わせの後、ショーが始る。





「やい!フック!! ウェンディ達を返せ!!」

元気な少年ピーターパンも、青子が演じれば、可愛らしくなる。


(うっわ〜、すっげぇ可愛いんですけど〜♪)


「さぁ、どうしようかねぇ〜♪」

ピーターパン、もとい青子の腕を捕まえ、先日と同じように顎をつつく。


(バ快斗!! そんなにくっつかないでよ!!)




余談だが、悲鳴をあげるウェンディ役の2人の心内。

(返さないで〜〜〜)

だったらしい。







青子の気合と、快斗信者の二人の熱の篭った演技で、アクシデントもなくショーは無事終了。



更に、祭も滞りなく終了。


関係者だけの打ち上げを丁重にお断りし、ウェンディの二人と簡単な食事をしたあと

(食事中にマジック教室のOKをしっかり取られたが)青子の家に帰った。



「今日はお疲れ様、快斗」

「青子もお疲れ、楽しかったぜ」

「うん。ウェンディの2人も楽しそうだったね」

「そうだな」

「ね、マジック教室、やっばり嫌?」

「ん〜、あまり気乗りはしねーけどな。OK出しちまったし・・・」

「青子、先走りすぎたかな・・・」

「いいよ、気にすんな。手伝ってくれるんだろ?」

「うん!! よろしくお願いします! 快斗先生vv」

「おぅ、しっかり頼むぜ」

「楽しみだね〜〜vv」



青子のマジックのネタを教えるのは気乗りしないが、素人でも出来る範囲のものだけならいいだろう。


何より助手が出来た事が、青子にとって嬉しいらしく、さっきからにこにこと笑みが零れっぱなし。



快斗には、理性崩しの笑みだが、お楽しみはもう少し後にとっておくとして。



今日の反省ならぬ感想を話す青子に、幸せな笑みを返す、快斗だった。





江古田商店街夏祭り メインイベント
高校生マジシャン 黒羽快斗スペシャルショー

 出演     フック船長:黒羽快斗

         ピーターパン:中森青子

 特別出演  ウエンディ:貢片利一朗&ゆうき(Wキャスト)






おまけ


「ったく、何がピーターパンだか」

「もう、文句言わずに見れないの? 2人とも素敵じゃない」

(青子ちゃんはいいけどよ、快斗のあのカッコはなぁ・・・)

「隣にいた人達、さっき、すごかったね。目が輝いてたよ」

「あ〜、ウエンディ役の二人ね・・・」

「青子ちゃんに聞いたんだけどね、快斗君、マジック教室やるんだって〜。

そっか、あの人達が青子ちゃんの言ってた人達なのね。 私も行ってみたいな〜」

(はぁ!? マジック教室だぁ!?)

「行く必要ねーだろ」

「えー、どうしてよ〜」

(快斗の生徒だなんて絶対許さねーぞ!)

「マジックは見てるだけでいいんだよ。その方が面白いだろ?」


タネ知ったらつまんねーぜ?

「うーん、でも・・・」

「とにかく、ダメなものはダメ!」

「・・・・・・・はぁ〜い」











2004年8月14日限定夏祭りの作品としてUPしていたものです。

なお、再UPにあたり、加筆(おまけ部分)してます。

お判りとは思いますが、たから部屋に置いてます、貢片利一朗くんのイラストにつけた小話の続きです。

こーんな駄文ですが、お祭りにお誘い下さったゆうきさんと、お話の元となったイラスト作者の貢片利一朗くんに捧げますvv