ぴー、ぴー、ぴー。

ぽー、ぽー、ぽー。


米花町にどん!と鎮座する大きな洋館から、何とも不釣合いのような、それでいて耳に心地よい音が漏れてくる。

正確には洩れている、のではなく、玄関を空けた、館主の耳に入ってた来たのだが。









『OCARINA』









「何やってたんだ?」


リビングから洩れる音に、これは何の音だろう?とあれこれ推理しながら、戸をあける。


優しい音色の間に新一の声が響き、蘭は手をとめて振り向いた。


「あ、おかえりなさい」

「ただいま。で、何やってんの? オカリナ?」

「うん。今日ね、園子に付き合ってCDショップに行ったの。

その時、店内に流れてたのがオカリナの曲でね、何だかすごく綺麗で、どうしても欲しくなっちゃったんだ」


初心者用として売られているセットを、衝動買いしちゃった、と舌をぺろっと出す。


「CDも買ったんだvv」


オカリナ奏者として有名なアーティストのアルバムを新一に見せる。

ステレオから、オカリナの音色が響き渡る。


「ほら、この曲、新一も聞いたことない?」


かかっているのは、大人から子供まで幅広い人気のアニメのテーマ曲。

歌うのは、この曲でブレイクしたカウンターテナー。


「ん〜、曲だけは聞いたことあるな」

「んもう! 映画、テレビでも放映してたでしょ? 見なかったの?」

「見てない」

「じゃぁ、これは? 20年近く前の作品だけど、結構有名よ?」


中国の黄河を特集した番組で使われた曲に変える。


「わりぃ、知らねぇ」

「〜〜〜〜〜! じゃ、こっち。これなら知ってるでしょ!」


南米のアンデス民謡として有名な曲。

アメリカのアーティスト二人組が歌っているのが良く知られている。


「あぁ、これなら知ってる。でもこれってケーナで吹くんじゃなかったっけ?」

「うん、ケーナで吹いてるのが多いけど、それをオカリナで吹いてるの。ちょっと雰囲気が違ってステキしでしょ?」

「ん〜、音綺麗だよな。で、蘭も、そのオカリナを吹きたくなったってわけだ」

「そう! ほら、初心者用だから、指の押さえ方も書いてあるし、私にも出来るかな〜って」

「で、成果は?」

「まだ始めたばっかりよ? でも楽しい、頑張れそう」


蘭にとって、楽器といえばピアノ。

それは新一にとっても同じ。

ピアノとはまったく違う楽器を奏でるのも、それはそれで楽しい。




「ね、新一もやってみない?」

「俺はいいよ」

「え〜、どうして? 一緒にやろうよ」

「お誘いは嬉しいけどな。それよりさ、ソレきちんと吹けるようになったら、ピアノ弾いてやるから、セッションしようぜ」

「え? ホント!?」

「あぁ、但し、俺が弾けるヤツにしてくれよ」

「うん! さっきの曲、弾ける?」

「コンドルか? 何回か弾きゃ、大丈夫だろ」

「嬉しい! じゃ、楽譜買ってこなきゃ」

「そっちの楽譜もな」

「うん、この人のアルバムって楽譜も出てるみたいだからあると思う。一緒に探してくる!」





蘭の白い両手に行儀良く収まったオカリナ。







新一のピアノとの夢の共演まで、あと少し・・・・・?







END









2004年、秋。
《天然組曲:匂坂七海様》《LOVE IS TRUTH:maa様》主催の秋の芸術祭に出展した作品です。


この話を書くにあたり、手持ちのオカリナCD、かけまくりました。
なかはらの頭の中、コンドルとかカウンターテナーとか、エンドレスで鳴り響いてます。

なお、オカリナ奏者として有名なアーティストとはこちらの方です。