優しい嘘




「これもハズレか・・・」

満月に夜にふさわしく、軽やかに踊り出たKIDの、本日の戦利品。
何となく違うような予感はしていたが、確信があるわけじゃないので、出した予告状。
こういう予感は必ずあたる。
これまでの経過を辿って、渇いた笑いが浮かぶ。

「たまにはハズれて欲しいよな、この予感」
知らず知らずに溜息が出てしまう。
早く終わらせて、全てを話したいのに。


「溜息は上を向いてつこう」

「え?」

突然降りかかった、優しく甘い声。
振り返らなくても、その主は判る。

「青子に言ってくれた言葉だよ? 忘れた?」

「青子・・・さん? 何故ここへ」
「呼ばれたの、青子の大事な人に」
「呼ばれた?」
(大事な人って誰だよ・・・)
「それより、忘れたの? 青子に言ってくれた言葉なのに」

父、銀三の多忙を心配し、溜息ばかりついていた青子に言った言葉。
上を向いてつけば、それは息抜きになる。
落ち込んだ心を元気にするための、小さなおまじない。
(忘れちゃいねーけどさ、それを言ったのはKIDじゃなくて・・・って、え?)

「何・・・かのお間違いでは? 私は貴女にそのようなことを言った覚えはありませんが」
イヤな予感がする。
まさか、まさか、バレた?

「もう、嘘はよそうよ。嘘つくことで、溜息つくんじゃ青子だって悲しいよ」
「何・・・を・・・」
「どうしてか、なんて理由は聞かないよ。でもね、嘘だけはやめよう」
「私が貴女に嘘を?」

ダメだ! それ以上は言うな!
KIDの精神は強固なものなのに、相手が青子というだけで、こんなにも脆いなんて!

いつかは話すと決めたことなのに、いざ目の前にすると、恐怖だけが心を支配する。
青子には、青子にだけは嫌われたくない!

「青子のためを思ってついた嘘だよね? 優しい嘘。でもね、青子にとっては優しくても嘘は嘘なの。
 それにね、真実を知ったからって、青子は何も変わったりしないよ?」

畳み掛けるような、それでいて優しい声。

あお・・・・こ!!!

「なん・・・で」
ポーカーフェィスは崩れた。
声は既にKIDのものではない。

「快斗・・・だよね?」
「あぁ・・・」
「やっばり、青子の目、フシアナじゃなかったね」
「いつ・・・判ったんだ」
「最初から判ってたよ、ただ信じられなかったけどね。
 だからってお父さんに言うつもりはなかったし、気持ちが落ち着くまで黙ってようって決めてたの」

最初からって・・・。

「ごめんね、青子に気付かれないように必死になってるの判ってた」
「ごめ・・・ん」
「謝らないで。理由なしにやってる訳じゃないってコトくらい、ちゃんと判ってるよ」

それにね、ホントはKID嫌いじゃなかったから。

僅かながら赤くなった顔を逸らしながらの青子の告白。

青子にとっては、KIDが誰なのかよりも、快斗が嘘をつくことの方が耐えられなかった。
快斗にとって、青子はその程度の存在なのかもしれない、そのことが悲しかった、と。

どんな想いで「KIDなんて嫌い」と言ってたのか。
単純に父の敵だから嫌い、だと思ってたのに、真意はそうではなくて。
言葉の裏に隠された気持ちに気付かなかった自分が恨めしい。

「青子・・・、ありがとう」
「うん、お疲れ様、帰ろう?」


どんなに優しくても嘘は嘘。

青子にとって、快斗にとって、優しい嘘は互いを傷つけるだけの、必要のないモノ。


だから・・・。



──────もう、優しい嘘はいらない──────





カウンター401番(惜しい!400番/笑)ゲットのtomoeさんのキリリクです。
溜息云々は実はなかはらの座右の銘(爆)だったりします。
お題をそのままキリリクにスルーするというセコイ手を使っちゃいましたが、
やっぱりこんなモンしか書けませんでした(涙)
tomoeさん、ごめんなさ〜〜いっっっ