『真剣勝負』





いつもの教室で授業を受ける日常生活…。
暇過ぎてたまらない…なにか起らないかとボーッと考えていた時、

「新一?」
「うあっ!」

いきなり目の前に蘭の顔が現れたのでびっくりすると同時にとんでもない声を上げる。
危く座っていた椅子から倒れそうになった。

「いきなり顔出すんじゃねぇーよ!びっくりするじゃねぇーか」
「ゴメンね?なんかボーッとしてたから気合いを入れてあげたのよ!」
「気合いね…」

はっと素っ気なく笑う。
また再び机の方に向きを変えた。

「ねぇ、新一お願いがあるの」
「宿題見せろと?」
「新一と一緒にしないでよっ!」
「あ、違うの?」
「当たり前でしょ?」

もうと言った表情をしていた。

「新一ってこの頃暇?」
「暇って訳でもないけど…なんで?」

いきなり暇と聞かれそんなに俺は暇そうに見えるのか?と疑問を抱く。

「実はね…」

蘭は訳を話始めた。


実はこの帝丹高校の男子バスケ部は今都大会の決勝戦まで来ていると言う。
案外強いなぁ〜という風にしか聞いていなかった。
聞いてる?と蘭に言われはいはいと言い返す始末…。
蘭は溜息を付きながらも話を続けた。
所がこの決勝戦の大事な時に怪我人がでてしまった。
しかもエースという。
そりゃ大変ね〜とまた流す。
そこで蘭は男子バスケ部のマネージャーに頼まれた。
友人なのである。
困っている人はほっとけない!これが蘭の性格である。
変わりにいい人はいないかと…そこで蘭は新一のことが思い浮かび友人に任せて!といってしまった。

「新一やってくれない?」
「はいはい…はい!?」

最後に声が裏返る。

「やってくれるの!」
「ちょっと待て!勝手に決めるな!俺はサッカー部だぞ?」
「新一ならなんでも出来るでしょ?体力には自信あるって言ってたじゃないv」
「いや…それとこれは」

マズい…このままだとバスケをやる羽目になる…断ろうとした時肩を叩かれた。
肩を叩いたのは園子だった。
ニヤと笑っていた。
嫌な予感…この予感は必ず的中すると言った方が早い。

「あら?新一君知らないの?」
「なにがだよ…」
「バスケって案外モテるのよ?」
「だからなんだよ…」

新一の内心は別に蘭以外にモテても嬉しくないというものが存在した。
そんな新一を見るなり園子は蘭の隣に行った。

「蘭もカッコイイ新一君の姿みたいよね?」
「えっ…そ、そんな訳じゃ!」
「益々怪しいわね〜」

園子はからかってくる。
そして耳元で呟いた。

「ここでうん!って言えば新一君やってくれるわよ」
「ホント?」
「嘘だと思うなら言ってみな」

蘭は渋々言った

「新一が…バスケしている所…見たい」

言った蘭の顔は真っ赤になっていた。
蘭にそう言われ機嫌が良くなった。
だがこのまま頷きたくなかった。
暫く考えて口を開く

「条件のんでくれるなら良いぜ?」
「条件って?」

一体なんだろうかと悩む。
園子は(蘭…覚悟した方がいいわよ…)新一の条件と来たら大体見当が付く。

「まぁー帰りにでも…」
「なら条件のむわ!その代わりちゃんと出てね、試合?」

ニヤと笑って「勿論」と言った。


(これで蘭と一日中一緒に居られる〜)


蘭はいい忘れて振り返り、

「あぁ、後対戦相手は江古田高校だからねっ!!」



江古田高校と悩んだ末浮んで来た顔は…快斗の顔だった。
いつも余裕の笑みを浮べている憎たらしいあの顔…昼と夜の二つの顔を持つ男。
昼間はどっか抜けているように見えるが、夜ともなれば全く違う人格である。
まるで二重人格。

事件が無ければ現場に連れて行かれ、手伝わされる。
かったるくてやってられない。
ただ眺めているのはマズいので指示はする。
そこで焦った顔のキッドをみるのもまた楽しいかもしれない。

だが全く表情を変えようとしないがキッドである。
お互いの知恵比べをしている。
たまに誰もいない所で会話をすることもある。
くだらい話だかいつもと違う快斗を見ることが出来る。

キッドである快斗と快斗であるキッド。
たまによく判らなくなる。
キッドの姿をしている時は彼女のことを誰も想っているように感じる。
あの姿である事に罪を感じているせいもあるかもしれない。

自分もコナンと言う仮の姿で蘭に嘘を付きながら生きて来た。
そして何度泣かせただろうか…
あの瞳から零れ落ちる宝石の様な一粒、一粒は頭から消えない…消えることはないだろう…
これも罪かもしれない…よくそれで蘭の傍にいられたものだと関心する。

だが泣いて欲しくなかった。
あの涙だけは…そして二度と見たくないと想った。
いつも一人にして、置いて行って…それでも待って居て欲しいなんて恥ずかしいもんだ…。

それでも蘭は待ってくれていた。
約束を守って…だから今度は俺自身が約束を果そうと想った。

傍に居るという約束を…この事を考えると俺と快斗は同じ想いを持っている。
彼女を守りたい…という願いを。

素朴かもしれない…周りから見れば単純かもしれない…。
それでも良い…彼女を守り、幸せにできるなら他に何もいらない。
彼女の幸せが俺の一番の幸せだから…。

快斗も決して口には出さないが、こんな事を想っているだろう…。
だがいつもお互いの意見が合っている訳ではない。
ほとんど食違いで喧嘩ばかりである。


「まぁ…アイツがでる訳でもねぇーからいいか」


はぁ〜と溜息を付いた。





その頃江古田高校では快斗が大きなくしゃみをしていた。

「ハックシュンッ!」

その大きななくしゃみに青子はびっくりした。

「快斗大丈夫?風邪引いたの?」
「いや…誰か俺の噂してんだろ…」
「誰が?」
「さぁーな」
「どうして噂って判るのよ?」
「なんとなく…」

そして再びまた机に伏せた。

「快斗ー」

青子は伏せた快斗を起上らせる。

「あんだよ…」

機嫌悪そうに見る。

「考えてくれた?」
「考えるって何を?」
「ほら人の話聞いてないー!」

全くいつもこうなんだから…。
呆れながら快斗を見た。

「バスケの試合の事!さっき考えておくって言ったじゃない!」
「それ…今日中な訳〜」
「勿論!」

青子は早くと言わんばかりに待っていた。
青子達のバスケも帝丹高校と一緒の理由だった。
エースが怪我をしたのである。
なんという偶然…。

「なんか得することあんのかよ?」
「得?そんなの知らないよぉー」


(またコイツ勝手にOKして来やがって…)


はぁ…と溜息を着いた。

「…わーった、いいよ」
「ホント!?ありがとう!」
「その代り条件のんで?」

その言葉に嫌な予感がした…絶対になんかあると確信を持った。

「な、なによ…条件って…」
「それは…♪」

笑いながら青子の耳元に囁いた。
その言葉に青子はえっーと声を上げた。

「嫌なら別に良いけど?」

ニヤニヤ笑っている快斗が憎たらしくて仕方がなかった

「意地悪…」
「なんとでもいいな〜♪どうする?」

これは脅しだと思った。
仕方がなく頷いた

「交渉成立だ!」

勝ち誇ったような笑みを浮べた。
「うぅ…」
「怒っている青子も可愛いなぁ♪」

膨れている頬に触れて撫でた。
快斗はご機嫌だった。
機嫌良さそうな快斗に言った

「相手は帝丹高校だよ」
「なんだ工藤の所じゃん。アイツでないんだろ?」
「判らない」
「出る訳ないか〜」

鼻歌を歌いながら快斗は教室から出て入った。
快斗が去った後恵子がやって来た。

「何を約束したの?」
「言えないよぉ」
「紙に書くのは?」
「恵子」
「ダメ?」
「後でね…」

青子も快斗の後を追う様に教室から消えて行った。
青子の場合は溜息だった。

「青子大丈夫かな?」

恵子はただ消えて行く青子を見送った。





新一と快斗…まさかお互いが戦うなんて思ってもなかった。
普通ならこんな偶然などあるはずが無いのだから。


彼女達はそれを後で知り驚く事しか出来なかった。



なんだかんだと言いながら放課後青子は快斗を連れて体育館に来た。
そこに行って見ると青子の友人が駆寄って来た。

「ホント連れて来てくれたのーありがとうー。青子大好き!」

友人が青子に抱き付いた。

「任せてよ!」

何故かその後から男子のバスケ部員がやって来てどさくさに紛れて抱き付いた。

「中森最高〜」
それを見た快斗はピシッとキレ彼を蹴り飛した。

「触んな、アホ…」
「く、黒羽痛ぇーよ!俺はお礼に熱い抱擁を…」

蹴り飛した彼の前に腰を降ろし

「んなもいらねぇーよ、馬鹿!抱擁は俺だけ」

最後を強調しながら言った。
クラスメイトだからやったのである。


快斗達は高校三年。
部活も最後である。
だが青子に近寄るもの、全て寄付けぬ様に快斗は先輩後輩問わず駆除するだろう…恐るべし黒羽快斗。
彼女の青子は全くその事に気付いていない。
見下す様にクラスメイトを見る。
ボーッと立っている様に見えたせいか青子は快斗の腕を引っ張った。

「快斗、練習!!」
「へいへい…」

やる気のない声で返事した。


対決するため色で分けた。

赤と黄色。
快斗は赤を来ていた。
笛の合図と同時にジャンプボール。
選手達はボールを追い一斉にゴールに向かい走り始めた。

ボールを追掛ける快斗の姿を見ながら青子は知らず知らずのうちに頬を赤く染めていた。
隣で見ていた友人はニヤッと笑った。
こんな青子の姿を見たら快斗はきっと喜ぶだろうと思った。

「黒羽君ナイス」

叫んでも青子は気付かない。
快斗はキョロと青子のいる方を見た時びっくりした。
青子が真っ赤になってる。
内心もの凄く嬉しかったが誰にも見せたくないと言う気持ちの方が大きかった。
皆が走っている方とは逆の方に走って来た。
そして自分が来ていたジャージを脱ぎ青子の顔面目掛けて投げた。
いきなりジャージが飛んで来たのでびっくりした。
青子は我に返った

「な、なにすんのよー!」

快斗に向かって怒鳴った

「そんな顔してくれるのは嬉しいけど、俺だけの前にしろよな?」

そう言って快斗は走って行った。

青子は隣に居た友人に聞いて見た。

「青子…どんな顔してたの?」

クスッと笑って答えた。

「黒羽君の方見ながら真っ赤になってたの」

「…えっ?」

飛んでもない答えが返って来てびっくりした

「青子!そんな!」

恥ずかしくなり快斗のジャージを被った。

「可愛かったわよ」

青子は被ったまま顔出さない。
友人も隣りに腰を降ろし聞いてみた。

「カッコ良かったんでしょ?」

青子はコクンと頷いた
素直に頷く青子が可愛くて抱き付いた。

「可愛いぃー!黒羽君青子もらっていい??」

その言葉にはぁっ!?とした顔した。

「誰がやるかよ!」
「あーあ断れちゃった…ケチ〜…」
「ケチもなにもあるか!?」

ふんっと怒った顔していた。
怒りながらもしっかりプレイしているのが凄い。
パスを貰いそのままゴールを決めた。

「よっしゃー!」

座り込んでいる青子の所に走って来て抱き締めた。

「きゃっ!」
「青子ーご褒美頂戴」
「い、今は嫌!」
「約束しただろ?」

そう言うと青子が被っていたジャージを捲り顔を出させ青子の顔を引寄せ唇を重ねた。
見ている者はただ唖然として見ていた。


(つーか今試合中だろっ!?)


そして一斉に突込みを入れる。


青子の方は皆の目の前でキスされ真っ赤になり涙目になっていた。

「か、快斗の…ばかぁ!!」

放せと言わん許りに暴れる。
快斗はヤバかったとちょっと後悔…この後にくる言葉は…

「快斗なんてだいっ…!」

慌てて青子の口を押えた。
た、頼む…その言葉だけは…聞きたくない…折角同じ想いになれたのに。
その言葉は幼馴染みの時だけに…それでも嫌だったのに…。

「あ、青子悪かったよ!ゴメンな?」

どんな奴も寄付けない彼はやはり彼女には弱かった。
謝ったが、青子の機嫌は直らずぶーっと膨れて快斗を睨らんだ。

ヤバイ…かなり怒っている。
青子は掴まれてた快斗の手を振り払い壁の方に逃げて行った。
来るなと言う様な目で見ている。
近寄る事が許せない状態だった。

快斗は仕方がなく試合に戻って行った。
快斗のために中断されていた試合が再開された。
だがさっきとは違いやる気のない快斗…。
そんな快斗の姿を見ていた友人が青子に話掛けた。

「青子応援してあげたら?」

するとぷんっとそっぽうを向き「嫌!」と一言…。
きっとその言葉が聞えたのだろう快斗は頭にボールがぶつかった…重傷だ。
バスケ部員達は快斗の元に駆寄って来た。
こんな間違え…滅多にやらない。

「大丈夫か?」
「くぅ…いてぇ…これくらい平気さ」

と言いながも頭を押えていた


(バスケボールって案外痛いんだな…)


としみじみ思ってしまう…。
やはり気になるのだろう…青子の方に顔を向けた。
それに気付いた青子はふんっと別な方見た。
その行動に快斗はがっくり肩を下げ沈んでしまった


(どー見ても平気じゃねぇーじゃん…)


部員達は快斗を見てそう思った。
大好きな彼女がご機嫌斜めで彼氏は凹んでいた。
快斗はこのまま倒れしまいたいと心の底から思った。

「青子…許してあげたら?」
「絶対に嫌っ!快斗から謝ってくれなきゃ青子絶対に許さないもんっ!」

機嫌は直る気配なし…友人は喧嘩より試合の方が大切だった。
優勝が懸かっているのだから。
だが試合は以前以上に練習が出来ない状態になっていた。
頭が痛い…

「青子ー仲直りしてよぉ!」
「嫌だもん」

今日の青子は特に機嫌悪い。
コートの快斗は沈んでいる。
最悪な状態だった。
コートにいる部員達は快斗に促した

「中森に謝って来いよ!」
「…なんで俺が…?」
「元はと言えばお前が原因だろ!?早く行けよっ!!!」

しまいにはキレかかる部員達…快斗は背中を押され渋々青子の所に向った。
今は行きたくない…絶対に拒否られるから…。
青子の所まで来て座りこんだ。
逃げようとする青子を友人が押える。

「逃げないの!」
「だ、だって…」

そして二人を残して去って行った。
暫く沈黙が続く…。
話そうとしない二人…。
そしてやっと快斗が口を開く…。

「まだ…怒ってんのか?」
「当り前でしょ!」

また再び沈黙

「…ゴメン…悪かった」

青子は何も言わない。暫くしてから青子は

「いいよ…許してあげる」
「青子!」
「でも…」
「で、でも…?」
「優勝したらホントに許してあげる」
「じゃぁこの許しは?」
「仮の許し」
「か、仮!?」

驚いた顔をする

「優勝しなきゃずっと許してあげないんだから!」
「げぇっ!マジかよ…」
「頑張ってね」

ニッコリ微笑んだ。

「あ、あの…じゃ…キスの方は?」
「勿論、ナシ!」

快斗はどさっと勢い良く倒れた。
では俺はどうやって頑張れと…?ガク…また肩を落とす

「青子!せめて後一回だけでも!」

どうしてもねだってくる快斗…まるで子供のように見えた。
青子溜息を付いた。
どうしてそんなに青子のキスが欲しいのか判らなかった。

「頑張るって約束出来る?」
「勿論!」
「なら…」

すると快斗は青子にジャージを被せキスをする。

「か、快斗っ!!」

急にキスをされ驚く

「今度は見られてねぇーよ?」
「そう言う問題じゃないもんっ!」

ぶーと膨れる

「優勝したら沢山ご褒美くれよな、青子♪」

ちゅっと投げキッスをしながら戻って行った。

「バ快斗ぉーっ!!」

試合に再び戻った快斗はさっきとはまるで別人だった。
生き生きしていて楽しくやっている。

「青子って凄いね」
「なにが?」
「一発で機嫌直しちゃうんだから」
「別に…そんな」
「それ程快斗君が青子の事好きなんだね。じゃなきゃあそこまでやんないもん。愛されてるね!」

クスッと笑って戻って行く。


「ホントに青子の事好き…?」
判っている…彼がどれだけ好きでいてくれているか…。
でも時々不安になって疑ったりする…彼が他の女の人に見せる笑顔…見てると苦しい…。
胸が締付けられるくらい痛い…悲鳴を上げている。
青子だけの快斗じゃないって判っている…でも嫌なの…他の人に取られるのが…。
恋人同士になる前は不安で仕方がなかった…いつ彼が遠くに行ってしまうか判らなかったから…。

我儘でゴメンなさい…嫉妬してゴメンさい…でも青子はそれくらい快斗が好きだよ?
だから…青子の事抱き締めて安心させて…眠るなら快斗の腕の中で眠っていたい…。
死ぬなら…快斗の腕の中で死にたい…。
その暖かい腕の中に青子を閉込めていて欲しい…誰にも渡さないで…。
キスされる事…嫌じゃない…嬉しい…だから恥ずかしいの…。
ホントはね…キス…沢山して欲しい…誰も見ていない所なら沢山して…?
そのまま温もり感じていたいから…快斗は知らないよね…青子がこんな事思ってるのなんて…。

でも教えて上げない。
絶対に言えないよ…言ってしまったら全てが壊れてしまいそうだから…言わない…。
このまま秘密にさせてね?

好きだよ…快斗。
青子はフト顔を上げると快斗が微笑んでいた。
青子も笑った。
幸せ…。
些細な事が幸せと感じてしまうのだから…

笑った青子を見た快斗は走って来た。
丁度練習試合が終わったのでる。

「青子」

青子の前に座り込んだ。

「お疲れ様、はいタオル」

タオルを貰い流した汗を拭き取った。
青子が始めから用意していてくれたと思うと嬉しくなる

「試合には勝てそう?」
「勝たなきゃ許しくれねぇーだろ?」
「そうだよ」

クスッと笑って言った。

「試合に必ず勝って青子から沢山ご褒美貰わなきゃなっ!」

ニヤニヤ笑いながら言ってくる。
そんな風に笑っている姿を見るとまるで子供みたいだった。
無邪気で…可愛くて…そのままずっと笑ってね?

「勝たなきゃ何もないからね!」
「げぇっ!?それ酷くねぇー?」
「当然だよ」
「ちぇー…」

はぁ…と溜息を付いた。


(たまには快斗には良い薬だね)


頑張って勝ってね…そしたらご褒美沢山あげるからね!…






でも絶対そんな事は言えない…調子に乗るから。














同じ頃帝丹高校でも練習を始めていた。

新一が出ると聞き女子生徒達が集まってきた。
噂は早いものだなぁ〜と蘭は関心していまう


(そりゃ…私だって新一のカッコイイ所見たいけど…)


集まって来る女生徒数は半端な数じゃない。
先輩後輩問わずやってくる。
いつの間にか体育館は女生徒で溢れていた。

「きゃー工藤君!」
「カッコイイ!工藤先輩ー」

あちこちから聞こえてくる声…それを聞く度溜息が出る。
新一はこの声をどう思っているのか…

「溜息ばかりついてらしくないわね?」
「志保さん?」

隣には宮野志保が立っていた。
今は帝丹の保健の先生として来ている。
男子は美人が来たと喜んでいた。
志保は蘭の隣に座り込んだ。

「相変わらず凄い人気ね」
「はい…」

嬉しくない返事する。 その姿を見てクスッと笑った

「自信を持ちなさい。彼は貴女の事しか見えてないから。全て貴女のためよ?」
「新一が?」
「ええ。たまに来る視線は全て貴女を見てるわ」

志保に言われ見ていると新一は蘭と目が合い微笑んだ

「ね?」
「はい…」

それを知ると蘭は笑みが零れた。
嬉しかった

「貴女はいつもそんな風に笑っていた方がいいわ。貴女らしくて良いと思うわよ?」
「志保さん…私…」
「頑張ってね、蘭さん」

そう言って笑って立上がり去って行った。
誰かが志保に近付きにくいと言ったが…蘭はそうは思わなかった。

「だってあんなに優しいんだもん」



始めは蘭も近付けなかった。
でも志保の知らない部分を知っていくうちに考え方は変った。
ホントは優しい人なんだと…そして傷付きやすい人だと…。

蘭はよく保健室に遊びに行くようになった。
志保と沢山話がしたかった。
志保も遊びに来た蘭を拒否ろうとはしなかった。
逆に色々と話す。
志保はブランド好きだと判った。
しかも同じブランドを好きだと判り嬉しかった。
そして良くそこに新一がやって来て蘭を連れて帰ろうとする。
蘭は仕方がなく諦めてその場を去って行く。
そんな姿を志保は笑って見送る。

「またいつでもいらっしゃい」

そう言われて蘭は笑って返した。
新一にとっては蘭と時間を取られて気に入らない


(蘭は俺のだぞ…)


と内心文句を言っている。
ただ話ているだけなのに何故怒るのだろう、蘭はいつも新一が取る行動に疑問を抱いている。
話すぐらい良いのに…でもそんな新一の行動が嬉しいのだ。

今まで傍に居なかった新一が今こうして一緒に歩き、手を握ってくれている。
暖さが伝わってくる…人ってこんなにも暖いだと感じる時だった。
どんな人よりも暖くて…そしてどこか違う気がする…
新一が居なかったなんてまるで嘘みたいでずっと一緒にいる感覚がある。

居ない時なんて…朝目覚めると枕は涙で濡れていた…。
「強いね」と言われた時…本当に強くなりたいと思った…。
そして笑顔で貴方を迎えれる自分でありたかった…。
でもそんな事出来る筈がなかった…。
笑顔でなんて迎えられない…きっと泣いてしまうだろ…私は強くないから…普通の女の子なんだよ?

だから新一の胸の中でこの涙を拭わせて欲しい…。
そしてその腕で力一杯抱き締めて欲しい…。
私が何処かに行ってしまわないように…強く…強く…。
貴方の存在が私を強くするの…だから…一人にしないでね?
このままずっと新一と二人で眠っていたい。
新一の事を考えると体中が熱くなるのがわかる…それくらい好きなんだね…。
考え事している様に見えたのか新一は蘭に駆寄って来た。

「何ぼーっとしてんだ?」

いきなり目の前に新一が現れびっくりする

「おどかさないでよーびっくりしたじゃない!」
「蘭がボーッとしてるからだろ」
「考え事してたの」
「考え事って俺の事か?」

ニヤニヤ笑いながら聞いてくる。
蘭は溜息を付いた

「そうだよ」
「え」

はっきり言われ驚き真っ赤になる新一…そんな新一の顔を見て蘭は微笑んだ。


(私が知ってる新一だ…)


可愛くて…思わず口から出てしまった。
滅多にこんな事は聞かない。

「新一は…私の事…好き…?」

当り前の質問に新一はまた驚く。

「何当り前な事聞いてんだよ?俺は蘭しか見えてねぇーし蘭以外の奴は好きにならねーよ」

はっきり言われ真っ赤になる。

「俺は蘭を世界中の誰よりも愛してる…」

前聞いた言葉…何度聞いても赤くなる…ボーッとしながら聞いていた。

「まぁー言葉で判らなきゃ…今夜それを証明してやるよ、この体で?」

悪戯混じりに言ってみる。

「し、新一のエッチっー!早く練習に戻りなさいっ!」

蘭は新一の背中を勢いよく押した。
ニヤニヤ笑いながら戻って行った

「あんなのダンナも言う様になったわね」

園子が現れ言った。

「いい過ぎよ」

ふんと蘭は首を振った。

「新一君は蘭の為に命も捨てるわね」
「そんなのダメ…」
「なんで?」
「死ぬなら…一緒がいい…」

園子はフッと笑ってニヤニヤしながら見て来た。

「全く妬けるわね〜♪結婚式呼んでね〜」

ヒラヒラと手を振りながら消えて行った。

「そ、園子ー!」

もうと言って蘭は膨れていた。

「結婚式は盛大にするのか?それとも二人きりか?」
「え゛っ!」

驚いた声を出した。
新一が後に立って居たのである

「いきなり出て来ないでよー」

「終わったんだからいいだろ?それに夜は俺の本業だし」
新一の本業は探偵である。
日本の警察が認める救世主…その時の瞳はいつになく真剣で見惚れてしまう

「連絡入ったの?」
「ああ、さっき携帯にな。至急来てくれだとさ」
「相変わらずだね,本番の時来ないといいね」
「ああ」

苦笑いしながら言った。
新一を見詰める蘭の瞳は真剣だった。
新一は笑って蘭の頭を撫でた。

「心配すんな。ぜってぇー帰ってくるから」
「無傷でだよ?」
「了解」

二人は笑ってしまった。

いつもと危険と背中合わせだから心配で仕方がない…。
だから無事に帰って来て欲しい…。
新一は座っている蘭に手を差し伸べて立ち上らせた。
その隙に頬にキスをした。

「ちょっと!」
「怪我しない様におまじないかけて?」
「…信じないくせに…」

蘭は立止るとそっと唇を重ねた。

「怪我したら怒るわよ?」
「しないよ?」

いつも余裕の笑みを浮べながら言う新一…。
推理には余程自信があるのだろう…。
でもその余裕がいけない時だってあることは新一は良く知っている…。
だから事件の時はいつも真剣だった。

「ホントに気を付けてよ?」
「心配なら一緒に来るか?」

新一は蘭を誘ってみる。

「私に一体幾つ死体を見せる気?」
「すまん」

蘭は何度死体を見た事か,やはり事件は新一に付纏ってくるらしい。

「だからは私は家で待つの…好きな彼が帰って来てくれる事を祈りながらね?」

ニッコリ微笑む蘭を抱き寄せた。

「蘭を残して行きやしねぇーよ…」

包み込まれ時の安息感が嬉しかった。
この手…絶対に放さないでね?とは言えなかった…。
だって貴方の事…縛っていたくないもの…。

「待ってるからね」
「ああ!約束だ!」

新一はそう言って現場へと走って行った。



そこに人影がこちらに向かってくる事が判った。
街灯の灯に照されて姿が見えた。

「青子ちゃん?」
「わぁー蘭ちゃんだぁーvv」

そう言って青子は蘭の元に走って行き抱き付いた。
快斗から見れば恋人に抱き付いて行く様な抱き付き方だった。
蘭の事が羨しくなる…青子は自分には決してやってはくれないだろう…と思った。
それを考えると溜息が出た。

「はぁ…」
「どうしたの快斗?」

溜息をついている快斗に話かけた。

「なんでもねぇーよ…」

青子に抱き付いて来い!なんて言えるもんか…。
言ったら…手が跳んでくるか…何処から出て来たか判らないモップが跳んでくる…。


益々溜息…。


「快斗ホントに大丈夫?」

心配になり顔を覗き込む。
蘭は快斗は苦労しているんだという事が良く判った。

「快斗君大変ね」
「全くだよ」

蘭の方を見ながら言った。

「何蘭ちゃんと内緒話してるのよぉー青子にも教えて!」

ぶーと頬を膨ましながら言う

「いつかな」

と笑いながら言った。

「いつかって…いつよ!蘭ちゃん…快斗が」

蘭の方を見詰める。
少し可哀想だった


(青子ちゃん天然だから)


またそこが良い所でもあり可愛い所でもある。
そこが人を引付ける所かもしれない。
だが快斗にとってみればイイ迷惑だった…知らない奴らが集まって来る…。
青子は気付いていないが…


「所で、蘭ちゃん何してるんだ?」
「うん?新一が事件が有るって出掛けたから待って様かなって…」
「蘭ちゃん優しいね!なんか奥様みたい♪」
「あ、青子ちゃんっ!」

蘭は顔を赤くしていた。

「なら俺達は帰るぞ」

そう言うと青子の腕を引寄せ歩き始めた

「え!快斗!」
「別に良いんだよ?」

蘭も不思議そうだった。

「俺が後で工藤に殺されるから…」

苦笑しながら言った


(前なんか怒鳴られるわ…手が飛んでくるわで…もうヤダね…)


あの怒り狂った工藤を蘭にも見せてやりたいと思った。

「じゃあ」
「蘭ちゃん!また沢山お話しようね!」

青子は精一杯手を振った

「絶対にしようね!」

蘭もそう言って手を振った。
そして二人は暗闇の中に消えて行った。



蘭は誰も居ない工藤邸の扉を開き、なに作ろうかと考えていた。
淋しいが…新一の笑顔が見れるなら…そう思うだけで頑張ろうと思える。





快斗と青子は家の方に向かって歩いていた。

「ねぇ…さっきの蘭ちゃんとの内緒話なぁに?」

どうやらまだ気になるらしい


(青子はホントに天然だわ…)


溜息も混じりながら苦笑した

「教えたら怒らないか? 」

快斗が変った質問をしてきたので青子は首を傾げた

「怒らないよ」
「なら…おいで青子?」

快斗が両腕を広げて青子を呼んだ。
青子は益々首を傾げる


(快斗は何をしたいの?)


こうやっても判らない青子は相当天然だと思った。
何処を探しても居なさそうだ…。
キリがないので青子を抱き寄せた。
快斗の行動に青子はびっくりした。

「な、なにっ!いきなり!」
「…青子からこうして欲しかったんだよ」
「なんで!」

慌てて質問する
「蘭ちゃんには出来て俺には出来ねぇーのかよ…」

快斗の言葉でやっと判った。

「快斗…蘭ちゃんにヤキモチ妬いてたの…?」

青子の言葉に快斗の肩がぴくっと動く。
どうやら本当らしい…。
青子は思わず笑ってしまった。

「快斗ったら…もう」

クスクスと笑われ恥かしくてたまらない…。
今までしたどんな事より恥かしいかもしれないと思った程…。

「笑うなよ…」
「ゴメンね?でも …快斗可愛い!」
「か、可愛い言うなっ!可愛いって!」
「だってホントに可愛いんだもんv」

顔は見えないがきっと真っ赤になっているだろうと思った。
なんだか嬉 しくて快斗の背中に手を回して抱きついた…。
大きくて暖かな背中と腕…どれもみんな大好きで…たまらない…。

「蘭ちゃんはお友達だもん、それに女の子だし」
「そりゃ俺は男で女しゃないでも友達より恋人の方がランクは高いと思うけど?」
「ランクつけないの!」

頬を膨ませて怒った。

「…取敢えず俺は…青子を独 り占めしたい…それだけだ」
「うっ!」

いつになく素直に言ってくる快斗に青子は戸惑う…。
困っている青子の姿を見ながら可愛い奴だと思う。


(青子…もし俺が今以上お前に気持ち伝えたらどうする?
戸惑うよな…だからその気持ち少しずつ伝えていくよ…俺の全ての気持ちを…)


フッと笑って

「青子〜腹減った〜飯…」
「なら…放してよ!これじゃぁ早く帰れないでしょ!」

抱き締められたままでは何もできない。
勿論歩けない。

「しゃぁーねーなこれで我慢してやるよ」

青子を放し、手を掴んだ。

「これならいいだろ?」
「うんっ」

青子もニッコリ笑った。

そして二人は家に向かう為夜の道の中に消えて行った。
その中からは微かに笑声が響いてきた。















日にちが過ぎとうとう本番試合…。


会場は満席に近かった。
都大会の決勝誰もが楽しみにしていた。

この日が来るまで彼女達は彼氏達のまた違う姿を見れて満足していた。
どんな人よりもカッコ良くて自慢したい…彼…。


青子が体育館を歩いているとばったり蘭とあった。

「蘭ちゃんだぁー」

また再び抱き付く

「青子ちゃん、どうして…あ、そっか江古田高校だもんね。全校応援?」
「強制はしてないけど殆ど来てるよ。女子生徒が多いかな…」

青子は苦笑いした

「私の所も多いよ〜。きっと新一がでるからかもね」

蘭も苦笑いする

「そっか、新一君出るんだ。なら強そうだなぁ…」
「そんな事ないよ」
「青子の所もね、快斗が出るんだ♪なんか凄くはりきってたよ!」
「快斗君でるの?」
「うん」

二人はお互い顔を見合せた…

「「…」」

何も言えない

「これって…言った方が良いのかな?」
「た、多分…。二人を張り合わせたら…大変かも…」
「青子、快斗の所に行って来る!」
「私も新一に言ってくる」

二人はまた会う約束をしそれぞれの彼の元に走った。


「新一、あのね」

息を切らしながら言おうとした。

「なんだよ、そんな息切らして…大丈夫かよ?」

蘭を覗く。

「あ、あのね…江古田高校に…快斗君出るんだって 」






「「はぁ!?アイツ出るのかよ!?」」






お互い違う所に居ながら同じリアクションをしていた。

「今蘭ちゃんに会って…それで…」

青子は快斗の顔見ながら話した。

「フッ…良いぜ。全力で潰してやる」
「つ、潰すっ!?」

青子は快斗の言葉にびっくりして止めに入る

「け、喧嘩はダメだよ!」

後で部員達もうんうんと頷いていた。

「バーロ、これは試合だぜ?喧嘩なんしねぇーよ」

そう言うと準備運動をし始めた。


(だから心配なの!)









一方蘭の方も…

「喧嘩は絶対しないでよ!」
「喧嘩はしねぇーけど…潰すぞ?アイツ潰さないと無理そうだからな。だから俺がアイツマークするから」

誰もやりたくないし、喧嘩に巻込まれるのはゴメンだと思っていた。


(ホントに大丈夫かな)


蘭は不安になって来た。
お互い頑固で譲ろうとしなくてまるで子供の様だった。




(( 何も起こりませんように))





さぁ、彼女達の願いは届くのか。


笛の合図と共に集合が掛けられた。

お互いの選手がご対面した。
新一と快斗目が合いニヤと笑った。

「手加減しねぇーから」
「その台詞そっくりお前返す」

そしてジャンプボールの二人が前に出た。
ボールは宙 に舞い上りボールを叩く。
江古田高の選手がボールを叩く。
ボールは上手く快斗の所に飛んで行き手に取る

「ナイスパス♪」

快斗はドリブルしながら相手ゴールに向かう。
新一も快斗の足の早さに負けないくらいのスピードで追掛け、追いつく。

「流石足早いね〜」
「だてにサッカーやってねぇーよ」
「そうでした♪」
「新一君カッコイイv」

笑いながら新一に言った。

「殺すぞ…貴様…」
「わ、悪い…」

あまりにも新一の顔が怖かったので快斗は冗談を止め、真顔で

「この試合…負ける訳にはいかねぇーんだ」
「同じく」

お互い譲る気という事を知らない…。
快斗は振切ろうと走りだしたが、新一はそれに追付き止めようとする。
しかし快斗はボールを近くに居た仲間に渡した。
そしてすっとかわして行く…。

「パス!」

快斗はボールを渡した仲間に声を掛けボールを貰いそのままゴールを決めた。
江古田高の観客席からは歓声が上った。
青子も一緒に喜んでいた。

「やったー快斗!!!」
青子は快斗に向かって手を振った。
快斗もそれに気付き手を振って返す。
すると…、

「きゃ!黒羽君が手を振ってくれたvv」
「違うわよっ私によ!」

そう言って喧嘩になっていた。

青子はその人には言わなかったが
(快斗は青子に手を振ってくれたんだもんっ!)と内心思っていた。
青子はそう思いながらも快斗を見ていた


(ガンバレ…快斗!)


快斗が得点を入れれば新一が入れ返すというお互い一歩も譲らない試合だった。
なので同点のままが続き、前半終了…。





選手達はベンチに戻り短い休憩を取っていた。

「工藤…アイツホントにしつこいな…」
「まぁーな」

あの時の真顔は本気だ…キッドの時に見せる顔の様だった。
手を抜く気はないが、本気でいく。

「なんとかなるって」
「ホントかよ…」

不安そうに見て来る…


(まぁ…俺が事件で呼び出し来なければの話だけどな…)


こういう時に限って電話が鳴る。
だが嫌な事起るものだと思う。
新一の携帯電話が鳴り始めた

「お、おい…工藤…まさか?」

携帯を見ると…

「わりぃ…当り」

目暮警部からの応援要請だった。

「新一…」

蘭が立っていた

「わりぃ…蘭最後まで出れなくて…」

気まずそうに言う

「仕方がないよ?新一は名探偵だもん!事件しっかり解決してきなさいよ?」

「わーってる!」

そう言って新一は走って行った。

「も、毛利…俺達?」

選手達は蘭を見て来た。
蘭はなんと言ったらいいのか迷っている時、マネージャーが出て来た。

「なに弱気になってるのよっ!最後まで頑張りましょう!ここまで来たじゃない?ね?」

マネージャーの言葉に選手達もやる気を取り戻した。

「凄いね」

蘭は感心していた

「だてにマネージャーやってないわよ?」
「そうだね」

選手ではなくこのマネージャーが引張って来たのかもしれない…。



快斗は新一が抜けた事を聞いた。

「工藤が事件で?」
「ああ、お前の親戚の奴」
「アホ!勝手に親戚にすんな!」

ポカッと頭を叩く。

「いてぇーよ!!」
「どーやったら親戚に見えるんだよ!?」
「顔そっくりじゃん…」
「それだけだろ?」
「危くパスしそうになったんだぞ…なんか声も似てないか?」
「それ以上言ったら命ねぇーぞ?」
「は、はい…」

選手は何も言えなくなった。


これなら勝てると思った。
工藤が居ないなら…。

快斗はそう思い後半が始まった。
だが快斗が思っていたより簡単ではなかった。
選手達が躍起になっていた。


(負けまいと…)。


マネージャーに励まされ最後まで苦戦したが、江古田高校が勝利した。
危かったと快斗は息をはいた。
すると青子が走って来て抱き付いた。

「快斗っ!凄いねっ!」

観客席から見ていた女子生徒達からブーイングが飛び交っていた。


(青子の快斗だもんっ!誰にもあげないもん!)


青子も嬉しかった。



彼女からの抱擁…これ程嬉しいものはない。
快斗も青子の事を抱上げた

「沢山ご褒美くれよなvv」

そう言って頬にキスをする。
真っ赤になった頬を押えながらコクンと頷いた。
そんな青子を見て気分は最高だった。
試合にも勝ったし青子からもご褒美貰えるなんて最高だった。
帝丹高校は負けたが、笑っていた。

「いい試合だった」
「楽しかったな!」

といいながら。

蘭は泣いているマネージャーを慰めていた。
蘭は彼女が凄いと思う

「智菜のお陰でここまでこれたんたんだよ?凄いよっ!」
「そうかな?」
「そうだよ!ね、みんな!」

選手達に向って言った

「そうだぜ、池上が頑張ったからここまでこれたんだ。感謝だよ!な?」

選手達は頷いた

「みんな…ありがとうっ」

また再び泣き出してしまった。
歩きながら慰めていると新一が走って帰って来るのが見えた。

「新一…戻って来てくれたの?」
「ああ…気になって試合は?」

他の人達は二人を残して消えて行った。

蘭は下を向ながら

「負けちゃった。でも二点差だったんだよ?」
「ゴメン…俺が抜けなきゃ…」
「ううん。新一は悪くないよ?みんな良い勝負見れて良かったって言ってたよ!」

ニッコリ笑って言った。
笑っている蘭を見ると何処か安心する

「そっか…でも勝ちたかったな…黒羽との勝負」

「個人的にやれば?」
「なら今度はサッカーだな?これなら負ける気しねぇーや」
「新一ったら」

蘭はそっと腕を絡めて歩き始めた。
そして一言呟いた。

「ありがとう…」

その言葉が耳に響き新一は頬を染めた。

「…蘭の為なら…なんだってしてやるよ…」

照れながら言った。
その言葉にそっと頷いた

「好きだよ…蘭」
「私も新一が好き…」

新一は蘭を抱き寄せた。
蘭も新一の背中にそっと手を回した。
顔を上げると目の前に新一の顔があり頬を染める。
そんな蘭が可愛くて仕方がない。
新一は顔を近付け唇を重ねた。
誰もいない所での口付けはほんのりいつもより甘かった…。
唇を放すと蘭は新一の胸の中に顔埋めた。
そんな蘭を強く抱締めた。







とんでもない勝負は決着がつかないまま終わった。


彼氏達は愛しの彼女からご褒美を貰うのが楽しみだった。






3年前ぐらいでしょうか。
携帯を始めて持ったという佐倉井梢ちゃんから、メルマガ方式でいただいた作品です。
裏モノを含めて合計3作。
某茶会で話題になりまして、ご本人の許可が出ましたので、嬉々としてUPですvv
警部の邪魔が入る事なく、勝負が出来るのは、果たしていつのことでしょうね(笑)
サッカーでの勝負も読んでみたいなぁ・・・、梢ちゃんvv