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『Slightly Depressed VALENTINE』
製菓業界がにわかに活気づく2月。
火花を散らすのは、件の業界だけでなく。
意中の殿方を射止めんとする、世の姫君の熱いバトルがそこかしこで展開中。
そして、ここにもそのバトルのとばっちりを受けた少女がひとり。
「知らないから仕方ないんだけどね・・・。何で青子がコレ食べなきゃならないのよぉ」
目の前にずら〜と並ぶのは、処置に困って全署員に振り分けられた大量のチョコ。
『娘が甘いもの好きだから、私が戴きましょう』とでも言ったんだろう。
今回ばかりは、父親の、娘に対する優しさを恨みたくなってしまう。
高級品から手作り品、衣類に雑貨。
それでも、そんな父親の思いを無下にする青子ではない。
ちゃんと嬉しさ満面で受けとっていくのだ。
「こんなにたくさんあるんじゃ、青子のは必要ないじゃない」
ずらりと並ぶチョコと比べると、自作の何と貧弱なことか。
ともあれ、贈られる先の怪盗は、間もなくココへやって来る。
自分ではない誰かのチョコを彼が食べるのは嫌なのだが、ここまでくるとむしろ腹立だしくなってくる。
(ちゃんと食べてもらおうじゃないの!)
──────────カラン
「・・・・・・お帰りなさい、バ快斗」
「・・・・・・おぅ、ただいまって、どうした? ご機嫌ナナメじゃん」
(悪くもなるわよ!)
ベッドに腰掛け、快斗の方を向いてはいるものの、青子の表情は硬いまま。
そのまま視線を部屋の片隅のダンボールに移す。
「何?」
「誰かさんへの預かりもの」
「へ?」
硬い表情のまま、快斗に開ける様に指示し、そのままソッポを向く。
背後でがさがさとダンボールの擦れる音がする。
(快斗、甘いもの大好きだもんね。きっと顔くしゃくしゃにして喜ぶんだろうなぁ・・・)
すぐに上がるだろう喜びの声に、心が騒ぎ出す。
(ヤダ。泣きたくないのに・・・)
膝の上の拳を握り締め、目をぎゅっと閉じて、嗚咽をやり過ごそうとする。
(何でよ。青子、怒ってたのに。何で泣きたくなっちゃうの!)
ところが、いつまで経っても声があがらない。
不思議に思い、嗚咽をどうにかやり過ごして、一つ息をついてそぉっと振り返ろうとした瞬間。
視界に映るはずの快斗の姿はなく、目の前に白い壁が一面。
(あれ?)
「アホ子」
快斗の胸の中に閉じ込められていると気付いたのは、名を呼ばれてから。
「何よっ!」
「何でコレがココにあるのか、検討はつくけどさ。俺が食うワケねーじゃん。
食いモン粗末にするなってんなら、ご近所のガキにやるからさ」
判ってはいたのだ。
コレをみた快斗の反応も、その処置も。
だけど、現実に目の前に積まれた山を見てると、否応なく心は騒ぐ。
崇拝されているのはKIDであって、快斗ではないのだが、青子にとっては、どっちも同じなのだ。
ぼんぼんと頭をなでられ、小さなキスが降ってくる。
「俺が欲しいのはひとつだけ。食いたいのもひとつだけ」
そう言って快斗の胸から離され、目の前に掌がずいっと出される。
「あるんだろ?」
「・・・・うん」
「俺のだよな?」
「・・・・・・・・・・・・・うん」
(ずるいよなぁ。いつもそうやって青子を落としちゃうんだから)
机の引出しを開けて、一口サイズの小さなチョコの包みを取り出す。
「ちっちゃいのをたくさん作ったの。この方がたくさん食べてる気がするし、良いでしょ?」
「さんきゅ。まー、足りなくはないけど、追加は現地調達でよろしくな♪」
(現地調達?)
快斗の指先は青子の顔の前。
「・・・・なっ。バ快斗!!」
結局、青子が怒っていた現状の打開策はないまま。
また来年も同じようになるのかもしれないけれど。
とりあえずは、今の幸せな気持ちを喜んでおこうかな。
HAPPY VALENTINE!
2007年バレンタイン企画『ちょこ・りんぐ』に参加しました。
更に、期間内に開催された『ホワイトデー企画』にも参加しました。
駄作は上のリボンあたりに隠してますので、叩いてみて下さいね。
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