の組織 クリスマス企画





いつからだっけ?
快斗との身長に開きが出てきたのは。

並ぶと一目瞭然。
ほぼ頭一つ分違う。


高校生の頃、急激に伸びた快斗の身長。

気がついた時には、見上げないと顔が合わせられない状態になってた。


青子は、というと。

アレコレ試してみたものの、たいして伸びはしなかった。


卒業して4年。
来春、大学も卒業。


25センチの差は、結構大きい。

届かないのが、悔しい。









『25センチの幸せ』








快斗の裏の仕事につきあって、街の図書館へ行った。

目的の本や資料を一緒に探す。
両手に余る程の本を抱え、端の方の机に座った。


「あ、一つ足りね」
「え? どれ?」
「ん、コレ」
「探してきてあげる。快斗は座ってて」
「さんきゅ」


中央のカウンターの端末に書籍名を入力し、コーナーを調べる。

「経済のコーナーね」


広い図書館の隅の方に位置するソレは、利用する人が少ないのか、本がかなりぎちぎちに詰められている。

「えーっと」

青子の背を遥かに越えた高さの棚。
まずは下から探すのは、無理もない。
ひとつひとつ背表紙のタイトルを確認し、視線は上へと昇る。


「うそ・・・」

目的の本はあった。

ただし、一番上の棚。
手を伸ばしたところで、届かない。


「どうしよ・・・。快斗、今忙しいだろうし・・・」

踏み台になるものがないか、周りを探すが、あいにくどれもこれも使用中。
仕方なしに背の高そうな人を探すが、それもいない。

棚の前でうんうん唸ってると、目の前に黒い影がよぎった。


「え?」

「取れないなら呼べよ」

後ろにいたのは快斗。

「あ、ごめん」
「ほら、行くぞ。コレ調べたら終わるから」
「え? もう?」
「あのな・・・30分は経ってるぞ」
「やだ、そんなに・・・」
「おぅ、本を返す時間もあったぜ」

にやり、と笑う快斗に、何も言えなくなる。

しゅんと沈んだ青子を座らせ、残った作業を手早く済まる。

「背、やっぱり欲しかったな・・・」

ポツリとつぶやく。

「ん?何か言ったか?」
「何でもないよ」



図書館を後にして、そのまま快斗の家へ。

資料を整理する快斗を部屋に残し、キッチンへ行く。


今日は少し寒い。

特製のカフェオレをマグカップに入れ、邪魔にならないように、そっと部屋へ戻る。



(25センチか・・・)



机で黙々と作業をする快斗の背中を見つめ、小さな溜息をつく。


広くて暖かい背中。

背中合わせで座る時に、その大きさを改めて実感する。
自分の頭が快斗の背中に当たるのだ。


じ〜っと見つめていると、抱き付きたくなってしまった。



(邪魔になっちゃうかな)



小さいとはいえ、ついてしまった火は容易には消し難く。


少し丸まっていた背が伸びた瞬間、首の後ろから手を回し、ぴた、と貼り付いた。

「青子? どうした?」
「ん〜、何でもないよ」

回された手をぽんぽんと叩き、作業の手を止める。

「あ、ごめん、邪魔だね」

手を外そうと、寄りかかっていた体を起こす。

「んな事ねぇよ」

青子の手を取ったまま、くるりと向きを変え、その場に膝立ちにさせる。

「また妙な事考えてたろ。溜息、ちゃんと聞こえてたぜ」
「う・・・」
「さ、洗いざらい白状しな」

先ほどと同じように、にやり、と笑う。








「・・・・・・・・25センチ」

「は?」

「快斗と青子の身長差」
「そんなにあるっけ?」
「あるの!」
「んで? それがどうかしたか?」
「同じもの、見れない」
「同じ?」
「目線が違うでしょ? 快斗が見てるもの、青子には見えない。でも青子が見てるものは快斗にだって見える」

快斗の口から、ふぅ、と息が洩れた。

「アホ子」
「何よぉ・・・」
「これくらいがちょうど良いんだよ」
「だってぇ・・・」

小さく唇を尖らす青子の肩を掴み、くるりと向こうを向かせる。
そのまま、ぺたんと座らせて、快斗は椅子から降りる。
足を開いて投げ出し、青子のお尻を両足で挟むようにして座る。
青子の背中と快斗のお腹がくっつく。

「ほら、こうするとちょうど良い」

青子が、快斗の胸にすっぽりと納まる。

「立ってても、同じ事言えるぜ」
「うん」
「こうされるの、嫌じゃねぇんだろ?」
「ふふvv 暖かいね、快斗」
「ま、欲を言えばあと5センチは欲しかったけどな」
「え〜、まだいるの〜?」
「ん〜、そしたらさ、青子の耳がココに来るだろ?」

親指を立てて、心臓を指す。

「快斗の心臓の音?」
「青子、好きだっていってたろ? だからさ」
「うん、好き! 聞いてたら、心も暖かくなるから」
「そのまま寝ちまうのは、勘弁して欲しいけどな」
「ごめんね〜、だって気持よくなるんだもん」



大好きな人の腕に包まれる。
耳元をくすぐる言葉や吐息に、時々赤くなるけど、背中に感じる優しさは、25センチがくれた、ささやかな幸せ。
廻された腕を軽く持ち上げ、頬を寄せる。



惚れた女が、自分の腕にすっぽりと包まれて、そこに居る。
早くなる鼓動を聞かれてしまうのは、正直恥ずかしいけど、25センチがくれた、ささやかな幸せ。
華奢な体を抱き締め、胸いっぱいに青子の香りを吸い込む。




手に入れた幸せをかみ締めた時、窓辺のツリーが、シャン、と鳴ったような気がした。




〜fin〜







2005年クリスマス。 快斗を幸せにしよう!という素晴らしい企画に参加しました。
当社比ン倍で、ほのぼの目指してみました〜。

企画には更に青い羽企画として“ぷちあだると”な作品もありました。
このページのどこかからリンク貼ってます。