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「着いた〜vv 大阪だぁ〜」
ダイエーファンの青子にとっては敵地になる大阪。
明日から甲子園で3連戦。
チケットは第4戦まで。
運が良けりゃ、そこで優勝が決まる。
そうすれば当然東京へ帰ることになる。
せっかく二人だけの旅行だぜ。
青子には悪いが、阪神に頑張ってもらって、第7戦まで持って行ってくれねーかな。
「でも、残念だったな、和葉ちゃん」
「仕方ねーだろ、キレた服部なんざ、俺だってごめんだ」
昨夜、青子にかかってきた和葉からの電話。
『青子ちゃん、明日なんやけど、キャンセルしてええかな?』
「え? どうしたの?」
『ん〜、平次な、実は阪神のファンやねん。それでな、今めっちゃ機嫌悪いねん。
ほら、青子ちゃん、ダイエーのファンやん。だからな』
「あ、そうか・・・」
『ゴメンなぁ』
キレた服部が青子に何かする事はないだろうけど、俺には当たってくるだろうしな。
確かに残念だが、和葉の言うとおりにした方が賢明だろう。
『アタシだけやったら会えるんやけど・・・』
「でも、一人で動いたらますます機嫌悪くなるんでしょ?」
『うん、そうなんよ・・・』
「判った。残念だけど、今回は仕方ないね」
『また来たってな』
「うん」
「ね、快斗。ホテルは? とってあるの?」
「寺井ちゃんの知り合いに、こっちに住んでた人がいてさ、今海外にいってて自宅が空いてるんだと。そこ借りた」
「へぇ、そうなんだ」
レンタカーを借り、現地へと向かう。
球場からは少し遠い、郊外の一軒家。
「うわぁ〜、何、これぇ〜」
青子が声をあげたのも無理はない。
リビングの壁が、窓以外、全面鏡なのである。
寺井の知り合いとは言ったものの、正確には親父の知り合い。マジシャン仲間の一人。
プロのマジシャンの自宅なので、仕様もそれ相応のもの。
舞台に似せた広間、練習用にあつらえた鏡、防音完備の壁などなど、さすがの俺もびっくり。
プロってのはここまでしなきゃなんねーのか・・・。
当人と話したときに、少し様子がおかしかったのは、この事か。
「鏡ねぇ・・・」
これ、使えるかもな♪
「青子〜、とりあえず、メシ食いに行こうぜ〜。ハラ減った・・・」
「あ、うん。ねぇ、キッチン使っていいの?」
「好きに使っていいって言ってたぜ」
「途中にスーパーあったよね。何か買いに行こう。青子、作るよ」
それから、青子の手料理食って、二人で片付けて。
何だか新婚さんみたいで、照れくさかったけど、青子がすっげー嬉しそうにしてるから、こっちも気分良くて。
しょっぱなから飛ばしてしまいそうな勢いに、我ながら苦笑い。
鏡の利用方法を思いついたけれど、あくまでポーカーフェイス。
ここで青子の警戒心を煽ったらマズい。
試合がどうなるかは判らなねーけど、俺としては、最終日まで滞在するつもりだし。
時間はたっぷりある。
最高の演出で利用するためには、多少の我慢も必要。
今日明日はおあずけしとくかな・・・。
大阪3連戦。
チケットがない第5戦はテレビで応援。
いかに俺のIQが高くても、試合結果まで予測する事は出来ない。
2連勝の勢いもむなしく、蓋をあけてみれば、結果は3連敗。
密かに願った通りにはなったが、優勝して東京に帰るつもりでいた青子の落ち込みようは激しく、俺の慰めも空回り。
甘い時間を持とうにも、とてもそんな段階じゃなかった。
更に、俺が大阪にいるってのが服部の耳に入り、上機嫌で電話してきやがった。
しかも俺がダイエーファンだと思ってるらしい。
『ダイエーがなんぼのもんじゃい!』
「服部・・・、オメー呑んでるだろ?」
『おぅ、祝い酒じゃ〜』
青子に聞かせる訳にはいかねーよな、コレ。
青子には電波が悪いと言い訳して、外に出た。
「服部・・・、浮かれるのは勝手だけどな、青子に言うなよ」
『なんや、ねーちゃんも来とるんかい』
「あぁ、ついでに言っとく。今回は俺が付き添い。ダイエーファンは青子だ」
なんやて?と言いかけた服部をきっちり無視して、電話を切る。
ったく、こっちはそれどころじゃねーってのに。
悶々とした日が過ぎ、あけて第6戦。
球場へ行けない事を残念がってはいたが、今日こそは、と一人息巻いてテレビに釘づけの青子。
ヨコシマな考えで、第7戦まで、と願ったバツか。
今日負ければ、せっかくの計画もパァになりかねない。
ここにきて始めて、本気で俺も応援する。
頼むぜ〜、俺と青子の明るい未来の為に!
青子の願いが通じたか、俺の反省が効いたか、第6戦は再びダイエー勝利。
これで3勝3敗、明日の勝敗が全てを決める。
「よかったぁvv」
よしよし、これで俺の望みもつないだ。
にこにこ笑う青子を引き寄せて、おめでとう、とキス。
「んっ、もぉ、すぐこーゆーことするんだからぁ〜」
「いいじゃん、5日もおあずけだったんだぜ」
お小言もうわのそら、俺の手は早々と青子の服を脱がしにかかる。
「やぁんっ・・・って、今、何か聞こえなかった?」
「あ? なんだよ、イキナリ」
「だって・・・、ほら、玄関の方」
聞こえたよ、確かに。
出きれば居留守を使いたい相手だけどな。
「黒羽〜、いるんやろ〜」
何でいるんだよ、ココに!
っつーか、何で判った、ココが!
新一に並ぶ名探偵だってことを忘れてしまっていた俺がバカだったよ。
「ごめんな、青子ちゃん。止められんかってん」
和葉ちゃんがすまなそうに謝ってる。
あぁ、今日は無理だな。
服部が持ち込んだ酒がずらっと並ぶ。
「中森のねーちゃんがダイエーファンとは知らんやったわ。3勝3敗。振り出しやし、前祝いといこか」
いらねーよ、そんなもん!!
あぁ、もう! 判ったよ!! 付き合ってやろーじゃねーの。
間違いなく酔いつぶれる服部から青子を守るため、今夜は和葉宅に泊めてもらうように頼み、
上機嫌阪神ファンと不機嫌にわかダイエーファンの夜は更けていく。
翌朝、酔いつぶれた服部をそのまま迎えに来た和葉に渡したのは言うまでもなし。
ふん、和葉ちゃんの説教でもくらってろ!
「快斗、大丈夫? だいぶ呑んだんでしょ? 昨夜」
「ん? あぁ、大丈夫。服部を先につぶしたから、俺はほとんど呑んでない」
「え? じゃ、コレ全部服部君?」
リビング床に散らばる空きビンの山。
「ふわぁ・・・、ったく、ザルだよ、あいつは」
「快斗、寝てないんじゃない? 少し眠ったら? 片付けは青子がしとくよ?」
「ん・・・、わりぃ、そうしてくれると助かる」
「じゃ、お昼頃起こすね」
昨夜の服部の乱痴気騒ぎが容易に想像できるのか、青子がくすくす笑ってる。
今夜の為に、青子の申し出に甘え、ベットにもぐり込んだ。
「快斗? 起きて、試合が始まるよ」
体が揺れる衝動で目が覚めた。
「ごめんね、お昼に声かけようと思ってたんだけど、気持ちよさそうに眠ってたから・・・」
その間に掃除をしておいた、と青子。
昼飯抜きで眠ってたから、活動し始めた胃の悲鳴に、頭を掻きながら、早めの晩飯にありつく。
「いよいよ、今日が最後だね〜、勝つといいな」
まもなく試合開始。
ダイエー優勢で回は進み、ラスト9回表。
メガホンを握り締め、青子は臨戦体制に入っている。
『さぁ、ピッチャー投げた! 空振りーっ! 決まりました! ダイエー、日本一!!』
「やったぁぁぁぁぁぁ!!」
アナウンサーの絶叫と青子の絶叫と、球場にいるはずの探偵の溜息。
文字通り小躍りする青子を眺めながら、ざまぁみろ、と毒づく。
「快斗! 快斗! 優勝! 日本一だよ!!」
「あぁ、すげぇじゃん。 青子の応援が効いたんだよ」
「そうかなっvv そうかなっvv 嬉し〜〜〜〜〜っっ」
例のワンピースでピョンピョン飛び跳ねては、腕をぶんぶん振りまわし、体全体で喜びを表している。
ブラウン管の向こうでは、応援歌の大合唱。
夢中になってる青子に気付かれないように、祝杯の準備を始める。
合図ひとつで鏡を隠すカーテンがあくように、タネをしかける。
「長かったぁ〜」
一通り興奮して、少しばかり落ち着いたところで、声をかける。
「青子、俺達もやらねーか、ビールかけ」
「え? でも・・・、床が」
「ああ、ここじゃ無理だけど、風呂場なら問題ないだろ?」
もっとも、ビールじゃ青子がすぐに酔っちまうから、正確には炭酸水だが。
「あ・・・、うん」
やってみたいが、どうしよう・・・という表情の青子。
「ほら、行こうぜ」
戸惑う青子の手をひいて、風呂場へ入る。
浴室の隅に炭酸水の箱。
栓は全て抜いてある。
一本ずつ持ったところで、狂乱開始。
「いくぜ、青子」
覚悟を決めたか。
「うん! ダイエー、おめでとう!!!」
勢いよく振った炭酸水を天井に向けて飛ばし、ビール(もどき)かけが始まる。
「きゃーvv つめたーいっっ」
「ほらほら、かけるぜ〜♪」
炭酸水十数本しかない騒ぎも二人でやれば、時間は短くても充分に楽しめる。
「はぁ〜、楽しかった〜vv」
「まだまだ〜♪」
「え?」
炭酸水の代わりに青子にかけたものはお湯。
シャワーを全開にして青子に向ける。
「きゃっ! やったな〜!」
シャワーを取り上げようと振り上げた腕を即座に掴み、そのまま抱き込んでキスをする。
足元に転がったシャワーが体を濡らし続けるのもかまわずに。
「んっっ、ん〜〜〜〜っっ」
呼吸すら出来ない深く甘いキスに、ほどなく青子の体から力が抜ける。
「あ・・・、んっっ」
首筋を辿る唇に青子は早くも反応を示す。
濡れているため、少しばかり脱がせるのに手間取った服も、すでになく。
優勝と今の騒ぎで興奮したカラダは、簡単に火がついた。
青子の理性が完全に飛んだところで、横抱きに抱え、リビングへと場所を移す。
指を鳴らし、カーテンを全てあける。
「え?」
一瞬反応が遅れた青子に、ニヤリと笑いかけて。
ここにおまけ2が入ります。裏へ行こう!
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結局、青子が気絶するまで鏡を前に何度も攻め上げ、くたくたになって眠りについたのが明け方。
学校さえなければ、このまま居座ってもいいんだけどな。
しかし、今回はいい勉強になった。
本気でマジシャンを目指すのなら、こーゆー家じゃないといけない訳だ。
俺の未来予想図に、鏡を追加しておかなきゃな。
来年、青子の好きな、この球団がどうなってるかは判らないが、また何かしら口実に使わせてくれよな♪
期待してるぜ。
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翌日、1週間ぶりに登校した俺らに、クラスメイトの目が痛かったのは言うまでもなし。
ま、仕方ねーけどな。
悔しかったら、オメーらもやれってんだ。
そう言ってやったら、青子のビンタが飛んできた。
終わりました、やっと終わりました(笑)
お祝いネタでここまでひっぱるヤツもそうはいないですよねぇ・・・。
更に、密かにどこかにアヤシイおまけが・・・(爆)
ささ、まずは反転しましょ♪
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